日本化学雑誌 第81巻 第4号 - JST

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日本化学雑誌 第81巻 第4号 1960年4月 ポ ル フ ィ リ ン環 状 化 合 物 の 電 子 構 造 と電 子 ス ペ グ トル(第1報) 最 も 単 純 な 分 子 軌 道 法 に よ る ポ ル フ ィ ン分 子 の 取 り扱 い (昭 和34年2月2・訂 受 理) 宏† ポル フ ィ リン分 子 の 申 心 部 に は4個 の窒 素 原 子 が あ るが,ポ ル フ ィ リンの π電 子 系 を分子軌 道 法 で取 り扱 う際 ,そ の電気陰性度 パラメーター δαN(一δ〃β)はか な り任 意 に と られ て きた。 ここで は プ ロ トタイ プの ポル フ ィンにっ い て ,δNを0.0か ら1。5の 範 囲 内 で か え ・ 分 子 軌 道 法 の 計 算 を お こ な っ て み た 。 軌 道 エ ネ ル ギ ー,転 移 エ ネ ル ギ ー,π 電 子 密 度,π 結 合 次 数,自 由原子鶴 フロ ン テ ィア 電 子 密 度 な ど ・ こ の 分 子 の π電 子 系 に 関 す る諸 量 が 求 め られ ,δNに 対 す る依 存性 も明 らか に な った。 接触 作 用 と関 連 して この 分 子 の反 応 性 は 重 要 で あ るが,求 核 試 薬 は ピ ロ ー ル 核 を 結 び つ け て い る メ チ ン橋 を 攻 撃 しや す く,求 電 子 お よ び ラ ジ カ ル 試 薬 は 申 心 部 の 窒 素 原 子 か メ チ ン橋 を攻 撃 し や す い こ とが わ か っ た 。 結 合 付 加 反 応 は 外 側 の 二 重 結 合 性 の 大 きい 部分で起 る ことにな る・δ〃 を うま くえ らぷ と(δ〃二〇.9)実測 と うま くあ うよ うに ,各 吸 収 帯 を 各1電 子励起配置への電子転移 に帰 属 させ る ことが で きる。 しか しエネルギー的に接近 した 励起配置には ,同 じ 対 称 性(Eの の ものが た くさん あ るか ら,そ れ らの ま ざ り合 い は 無 視 す る こ とが で きな い 。 配 置 間 相 互 作 用 の 電 子 転 移 に 対 す る 影 響 に つ い て も簡 単 に 論 じ た 。 1緒0言 ポル フ ィ ン分 子 の π 電 子 系 に 対 す る 分 子 軌 道 法 に よ る 計 算 は Lo簸guet-HigginsらDに よって始められた 。 中 心 部 の4個 の窒素 原子の電気陰性度パラメーターを無視 して計算をお こない ,δε二 浮 僻2δαNと い う 関係2)で δαNを1・0β と して 軌 道 エ ネルギ ーを補正 してい る しか しそ の と き の 協 同 研 究 者 の1人Platt3) は後 に これ をf iに あ ら た め ,吸収 スペ ク トル を説 明 してい る。 Malow4)は 中 心 部 で お こ るN-H…N互 変 異性 と吸 収 スペ ク トル の関係を論 じたが ,電 気 陰 性 度 パ ラ メ0タ ー を 直 接 永 年 方 程 式 に くりこみ・>N-13のδκ には0.8βを>Nに はLOβ をあたえ てい る5)*㌔Seely6)も ポルフィンの外側の二重結合に水素が付加 した誘導体について 単純分子軌道法で計算をおこなったが1 1 を1・0βとしている 。 上 の 計 算 の結 果 は,そ れ ぞ れ の 著 者 が 引 用 してい るスペ ク トルの実 測値 とよ く一 致 してい るが ,著 者 によ っ てデ ー タの 解 析 の しか た が こ と な り ,ス ペ ク トルの帰属 もこれ に ともな って こ とな って い る 。 したが って実測 と計 算が みか け上_ 致 して い て も 用 い られ た 近 似 の 正 し さ を 示 す こ と に は な らな い ま して δαNの 選 択 の 正 し さ に つ い て は 何 も い う こ と が で きな い その取 り扱い がすべ て最 も単 純 な分子軌 道法 で あ り ,こ れ によ っ て電子スペ 外 ル に つ き限 界 を こ え た 議 論 を す る こ とは 危 険 で あ .1東京工業大学 無機化 学教 室,東京 都 目黒 区大 岡山 i) H. C . Longuet-Higgins, C. W. Rector , J. R. Platt, J. Chem. :Phys. 18, 1174 (1950). 2) C. A . Coulson, H. C. Longuet-Higgins , Proc. Roy. Soc. 191A, 39 (1947). 3) J. R . Platt, A. Hollaender 61, " Radiation Biology " Vol . III, Chap. 2, p. 71 (1956) New York . 4) S. L. Malow, J. Chem. Phys . 23, 673 (1955). 5) G. W. Wheland, J. Am. Chem . Soc. 84, 900 (1942). 毒畷 近では 一 般 に>N-Hの 方が .Nよ りも 晦 きい もの と さ楓 る ・ た と え ばL・ E・Orgel・T・ L・C・ttrell, W.Dick,L.E.Sutt。n, Tra ns、FaradaSec.4711 る。わ れわ れ は電子 スペ ク トル につ い て も っ と厳密 な計 算 を始 め る にさ き立 ち,こ れ までか な り任 意 に きめ られ て きた 中心部 窒 素 原子 の陰性 度 パ ラ メー ターが,ボ ル フ ィン分子 の π電 子 状態 に ど の よ う に影 響 す る か を し ら べ る た め,最 も単 純 な 分 子 軌 道 法 を 用 δαNを0.0~1.5βの範 囲 内 でか えて計 算 を お こな っ てみ た。 そ の結 果 か らポル フ ィン分 子 の電子 構造 と電子 スペ ク トル につ い て考察 してみ ることにする◎ 2計 算の原理と仮定 ポル フ ィ ン分 子 を 構 成 し て い る原 子 の2ρ 。 軌 道 φ三,…uの1 0次結 合 で 分 子 軌 道 を 近 似 す るbψ 一 Σ0ゆ,ポ ル フ ィ ン分 子 がP赫 の 対 称 性 を もつ とす れ ば お の お の の2ρ4軌 道 は1)41:の 可約表現 の 基 底 で あ り,rκ は 簡 約 され て 17κ 一4/42躍 十3B2謀 十2A1欝 十3」Bユm十6」E8 と既 約 表 現 の 組 で あ らわ さ れ る 。 各 原 子 軌 道 が 規 格 直 交 す る も の と仮 定 す れ ば,各 既 約 表 現 に 属 す る分 子 軌 道 と そ の エ ネ ル ギ ー は つ ぎ の 永 年 方 程 式 に よ っ て 与 え られ る1)7)◎ ここで (α・一 ε)6,+Σ β。、c、-0 8キ7 必一∫螂dち ∫螂dτ (1) 6) G . R. Seely, J. Chem. Phys. 27 , 125 (1957). す べ て の 炭 素原 子 に対 し て αrを等 し く と り,α と仮定 した ◎ 中 心部 窒素原 子 に対 して は これ を αNと と り一・つ の パ ラ メ_タ'一一.と した ◎βノ・は原子YとSが 結 合 してい る場 合の み と り,他 は すべ て0と した ◎ す べ て のCCお よ びCN結 合 に対 して 等 し くβ と 仮 定 した ◎ 上 の α と β に よ って αNを あ らわ す と αN一α+t i と な る◎ こ こ で は δNを0.0~1。5の範 囲 でか え て計 算 をお こな った ◎ 7)た とえ ば東 ・馬 場 ・"量子 有機 化学'・P 。55(1956)朝 店.

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日 本 化 学 雑 誌 第81巻 第4号

1960年4月

ポル フ ィリン環状 化合物の電子構造 と電 子 スペ グ トル(第1報)

最 も単純 な分子軌道法 によるポル フ ィン分子 の取 り扱 い

(昭 和34年2月2・ 訂受 理)

小 林 宏†

ポル フィ リン分 子 の申心 部 には4個 の窒 素原 子が あ るが,ポ ル フ ィ リンの π電 子 系 を分子軌 道 法 で取 り扱 う際,そ の電 気 陰性度パラメーター δαN(一 δ〃β)はか な り任 意 に と られ て きた。 ここで は プ ロ トタイ プの ポル フ ィンにっ い て,δNを0.0か ら1。5の

範囲内でか え・分 子軌道 法 の計算 をお こな ってみ た。軌道 エネル ギー,転 移 エ ネル ギ ー,π 電 子密 度,π 結 合次 数,自 由原子 鶴

フロンテ ィア電子 密度 な ど・ この分子 の π電子 系 に関す る諸量 が 求 め られ,δNに 対 す る依 存性 も明 らか に な った。

接触作 用 と関連 して この分 子 の反 応 性 は重要 であ るが,求 核 試薬 は ピロール核 を結 びつ け て い るメ チ ン橋 を攻 撃 しや す く,求 電

子および ラジ カル試薬 は申心 部 の窒素 原子 か メチ ン橋 を攻 撃 しやす い ことが わか った。結 合付 加反 応 は外 側 の二 重結 合 性 の大 きい

部分で起 る ことにな る・δ〃 を うま くえ らぷ と(δ 〃二〇.9)実 測 と うま くあ うよ うに,各 吸収 帯 を各1電 子 励起配 置へ の電 子 転移に帰 属 させ る ことが で きる。 しか しエネル ギー的 に接近 した 励起 配 置 には,同 じ 対 称 性(Eの の ものが た くさん あ るか ら,そ れらのまざ り合 い は無視 す る ことが で きな い。配 置間 相互作 用 の電子 転移 に対 す る影響 に つい て も簡単 に論 じた。

1緒0言

ポルフ ィン分 子 の π電 子 系 に 対 す る 分子 軌道 法 に よる 計 算は

Lo簸guet-HigginsらDに よって始 め られた。 中心部 の4個 の窒素

原子の電気陰 性度 パ ラ メー ターを無視 して計算 をお こない,δ ε二

浮 僻2δαNと い う 関係2)で δαNを1・0β と して 軌 道 エ ネルギーを補正 してい る

。 しか しその ときの協 同研究 者 の1人Platt3)

は後にこれ をf  iに あ らた め,吸 収 スペ ク トル を説 明 してい る。

Malow4)は 中心 部 でお こるN-H…N互 変 異性 と吸 収 スペ ク トル

の関係を論 じたが ,電 気 陰性 度 パ ラ メ0タ ーを直接永 年 方程 式 に

くりこみ・>N-13の δκ には0.8β を>Nに はLOβ を あたえ

ている5)*㌔Seely6)も ポル フ ィンの外側 の二 重結 合 に水 素が付加

した 誘導体 につ いて 単 純分 子軌 道法 で計 算 をお こな ったが1 1

を1・0β と してい る。上 の計 算 の結 果 は,そ れ ぞれ の著者 が 引用

してい るスペ ク トルの実 測値 とよ く一 致 してい るが,著 者 によ っ

てデータの解 析の しか たが こ とな り,ス ペ ク トルの帰 属 もこれ に

ともな って こ とな って い る。 したが って実測 と計 算が みか け上_

致していて も用い られ た近似 の正 しさを示 す こ とにはな らな い。

まして δαNの 選択 の正 しさにつ いて は何 もい うことが で きな い。

その取 り扱い がすべ て最 も単 純 な分子軌 道法 で あ り,こ れ によ っ

て電子スペ 外 ル につ き限界 を こえた議 論 をす る こ とは危 険 であ .1東 京工業大学無機化学教室,東 京都目黒区大岡山i) H. C. Longuet-Higgins, C. W. Rector , J. R. Platt, J. Chem.

:Phys. 18, 1174 (1950). 2) C. A . Coulson, H. C. Longuet-Higgins , Proc. Roy. Soc. 191A, 39

(1947). 3) J. R. Platt, A. Hollaender 61, " Radiation Biology " Vol . III,

Chap. 2, p. 71 (1956) New York . 4) S. L. Malow, J. Chem. Phys . 23, 673 (1955). 5) G. W. Wheland, J. Am. Chem . Soc. 84, 900 (1942).

毒畷 近 では一般 に>N-Hの 方が 〉

.Nよ りも 晦 漱 きい もの と さ楓 、

  る・た とえばL・  E・ Orgel・  T・ L・ C・ttrell,  W.  Dick,  L. E. Sutt。n,  Trans、 Farada  Sec.  4711

る。わ れわ れ は電子 スペ ク トル につ い て も っ と厳密 な計 算 を始 め

る にさ き立 ち,こ れ までか な り任 意 に きめ られ て きた 中心部 窒 素

原子 の陰性 度 パ ラ メー ターが,ボ ル フ ィン分子 の π電 子 状態 に ど

の よ うに影 響 す るか を しらべ るた め,最 も単 純 な分子 軌 道法 を 用

い δαNを0.0~1.5β の範 囲 内 でか えて計 算 を お こな っ てみ た。

そ の結 果 か らポル フ ィン分 子 の電子 構造 と電子 スペ ク トル につ い

て考察 してみ る ことにす る◎

2計 算の原理と仮定

ポル フ ィン分 子 を構 成 してい る原 子 の2ρ 。軌 道 φ三,…uの10次 結合 で分 子軌 道 を近似 す るbψ

一Σ0ゆ,ポ ル フ ィ ン分子 がP赫ゲ

の対 称 性 を もつ とす れ ばお のお のの2ρ4軌 道 は1)41:の 可約 表現

几 の基 底 で あ り,rκ は簡 約 され て

17κ一4/42躍十3B2謀 十2A1欝 十3」Bユm十6」E8

と既 約 表現 の組 であ らわ され る。各原 子 軌道 が規 格 直交 す るもの

と仮 定 すれ ば,各 既 約 表現 に属 す る分 子 軌道 とそ のエ ネル ギ ーは

つ ぎの永年 方程 式 に よって与 え られ る1)7)◎

こ こで

(α・一 ε)6,+Σ β。、c、-08キ7

必一∫螂dち 熊 ∫螂dτ

(1)

6) G . R. Seely, J. Chem. Phys. 27 , 125 (1957).

すべ て の炭 素原 子 に対 して αrを 等 し く と り,α と仮定 した ◎ 中

心部 窒素原 子 に対 して は これ を αNと と り一・つ の パ ラ メ_タ'一一.と

した ◎βノ・は原子YとSが 結 合 してい る場 合の み と り,他 は すべ

て0と した◎ すべ て のCCお よびCN結 合 に対 して 等 し くβ と

仮定 した ◎上 の αと βに よ って αNを あ らわ す と αN一 α+t  i

とな る◎ こ こでは δNを0.0~1。5の 範 囲 でか え て計 算 をお こな

った ◎

7)た とえ ば東 ・馬 場 ・"量 子 有機 化学'・P 。55(1956)朝 醜 店.

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520 日 本 化 学 雑 誌 第81巻 第4号(1960) (2)

3計 算 結 果

δNを0.0か ら1.5ま でか えて 永年 方程 式を 解 き,つ ぎの分

子 物理 量 を算 出 した。.

1.π 電 子 の軌 道 エネル ギ ー8(図1お よび 表1)

2.基 底状 態 にお け る π電子 密度4ア(-2Σc72)と π結 合次

数 ρ7ε(-2Σo/oε)(図3,4お よび 表2,3)

3・ 求 電 子反応,求 核 反応 お よび ラジ カル 反応 に対 す るフ0ン

テ ィア電子密 度8)戸 ・fNお よび ∫R(図5  '6・7お よび表4,

5,6)

へh繕 《勤

一2船嚇

一a2♂3}

Ai u cり

ご羅,鰯三◎・-Q一 騨'

o己 犠《魏

%《a》

一 レ毫犠{0}

一 わ2♂1,

~. ,《り

一◎嫌穏

{メ 、

し1準ω

e昏 《ら》

α2ゆ}

α"{り

eを 《3》

b墓"ω

α+β α2幽

e}ω

b澗"《Q

李2β

eをω

α2犠ω

b2"ω

05LO

δN

図1軌 道 エ ネル ギー

1.8

14

L◎

図2ポ ル フ イン分 子 の骨格

σOα5し0し5

δ押

図3π 電 子 密 度

表1軌 道 エ ネ ル ギ ー ε

δ1>,0.0δ ハz=0.5δ1v冨1ヤ 蓼0

み た され た軌 道

σ2μ α α十 〇.2265β α十〇.3820β

α十〇.7729β α十 〇。8583β α十1.0000β

α十2。3914β α十2。4854β α十2.6180β

ゐ2銘

σ魏

0ユ駕

88・

α+0。6180β

α二+2.000Pβ

α十〇.6180β

α十1.6180β

α十〇.6180β

a十1。1899β

α十2.2562β

α十 〇。8175β α十1。0000β

α十2。1229β α十2.3028β

α十 〇.6180β α十〇.6180β

α十1,6180β0十1。6180β

α+0.8110β α+1.0000β

α十1.1977β0十1。2197β

α十2.3535β α十2.4955β

低 エ ネ ル ギ ー の 空 い た 軌 道

西翅 α一〇。6180β.  ! . :1'

.,α 一〇.3565β α一〇.2773β

δノv;1.5

α十 〇.4672β

α十1.1766β

α十2。8030β

α十1.1468β

α十2.5500β

α十 〇.6180β

α十1.6180β

α十1.1161β

α十1、2948β

α十2。6973β

α一 〇.6180β α 一 〇.6180β

α一 〇.2197β α 一 〇.1788β

08

契 α60

04

QO 05

δN

1.0

図4π 結 合 次 数

し5

8)福 井,米 沢,永 田,新 宮,ノ.C加 欝.Pんyε.22,1433(1954).

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(3) 小林:ポ ル フ ィ リン環状化 合物 の電子 構造 と電 子 ス ペ ク トル(第1報) 521

4.自 由原 子 価 ・F7(-1>孟ax一 Σ ρ,・)9)た だ しす べ て の 原 子 にヨ

っい て1V益ax=ゾ す と した*2(図8お よ び 表7)。

¢2

43

421

表2π 電子 密度

r  1。0

1。085

1.075

0.966

1.223

J  f.5

1.057

1.008

0.952

1.419

9ノ

δ2v二1.0

1.薩032

0。961

0.945

1.570

δ2v甥1。5

1.011

0.930

0。941

1.678

20010.785

1-20.472

2030.575

Z-210.580

注 σ)C-CはCoulsonIo)の 方 法 に よ っ た.Cox,Jeffrey12)の

指 摘 す る よ う にC-C/C-N=1.05,C=CJC=N  =1.05だ

か ら,Cou1SQnの 方 法 で ρ露 か ら4戴 を求 め,

4戴/4鰹1・05に よ っ て4腎 を 算 出 し た.

表3π 結 合 次 数 ρダ3と 原 子 間 距 離 の47s

δハ1コ0.0δ ハ1=0.5δ1v=1。0δ ハ7=1。5

.ρグ、4,、(A)ρ.、4レ 、(A)』 ρ7s4,ε(A)メ 》。、4,S(A)

1.3650.7701.3650.7531.370.7361.37

1.4550.4981.440.5221.mO。5431.  425

1◎4150.5821.410.5891。410.5951.40昏

1。3450。5421。360.4921.380癖4401.40

瑞 瓠

σ3

02

璃蝋

σ3

0.2

0」

茜、

α005LOl5

δ揮

図5求 電 子反 応 に対す る フロン テ ィア電 子密度

≧瓠\

03

02

0」

/

0」

QOO.5しOし5

δ1v

図7ラ ジ カ ル 反 応 に 対 す る フ0ン テ ィ ア電 子 密 度

1.0

05

i1α5LOl5

δN

図8自 由 原 子 価

表4求 電子 反応 に対 す るフ ロ ンテ ィア電子 密度

∫ぞ

ノダ

∫『

∫薮

δ1v=0.0

0.0000

0.0000

0.2500

0。2500

δハ丁漏=0.5δw=1趨0

0.00620.0290

0.00360.0110

0.28500.3038

0.19540.1160

表5求 核 反応 に対 す る フ ロン テ ィア電 子 密度

バノダ

δ1ザ鵠0.0

0。0700

0.0312

0.2068

0.0907

δ」"V=0◎5δ ハOe1侮0

0。07370.0778

0.04540.0580

0.19420.1802

0.06780嘩0483

∫ダ

δ1v孟1.5

0.0566

0。0160

0.2944

0。0602

ノN T

δ1v腰1.5

0.0814

0.0674

0.1680

0.0344

α00、51.Ol、5

δ1v

図6求 核 反 応 に対 す る フ ロ ン テ ィ ア 電 子 密 度

9)た とえば東 漏 場・"量 子有機化学・・P.99(1956)朝 倉酷.*2中 心部の窒素府 のN飯 の定義のしかたは

いろいろ獣 られるがここでは炭素原子のそれ と簿 しくおいた.

10) C. A. Coulson, Proc. Roy . Soc. 207A, 91 (1951); C. A . Coulson, R. Daudel, J. M. Robertson , Proc. Roy. Soc. 207A, 306 (1951).

11) E. G. Cox, G. 13. Jeffrey. Proc . Roy. Soc. 207A, 110 (1951) .

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522 日 本 化 学i雑i誌 第81巻 第4号(1960)

表6ラ ジ カル反 応 に対す るフ ロン テ ィア電子 密度

δ1>=0.O

fR 1、0.0350

ノ 雷    0.0156

ノ 嘉0.22840

ノ 蚕0。1703悉

δN-0.5

0.03995

0.0245

0.2396

0。1316

δN=1。0

0.0534

0。0345

0.2420

0.,r a

表7自 由原子 価F7

δ2v=・0、O

F10.475

F20.105

F310.582

jF21(0.572)

δハr=0.5δ ハ1訓190

0.4640。457

0。1100.129

0.5680.554

(0.648)(0.748)

4考

4.1電 子構 造 と反応 性

ノタ

δ1v=1。5

0.0690

0.0417

0。2312

0.0473

δN=1.5

0.453

0.154

0.542

(0。852)

分子 軌道 は24個 の2ρ 羅原 子 軌道か ら組 立 て られ てい るが,低

エネル ギ ーの分子 軌 道 に26個 の π電子 が入 ってい る(図1)。 中

心 部ζ あ る窒素原子 の形式荷 電 は π電子 系 の電子状 態 ばか りでは

な く,中 心金 属原子 との結合 によ って も変 わ る。+2価 の金 属 イ

オ ンと 一112価 の窒素 配位子 との 間 に 配位結 合 を生 じた とき,

Pauling12)のsc電 気的 中性 の原 理"が 一応 み た され てい るとすれ

ば,配 位結 合 によ って金 属 イ オンも窒 素 配位子 もほ とん ど中性 と

な り,形 式荷電 を もた ない こ とにな る*3。 した が ってす べ て πの

電 子 を と りのぞ いた 分子骨 格 は窒素 の原子 芯 が+L5a炭 素 の原

子 芯が+1。0の 荷電 を もってい るこ とにな る。結 合状 態 にお ける

窒 素原 子は ピmル とピ リジンの 中間型 の電子 配置*4を と り,炭

素 原子 は ベ ンゼ ンや ナ フ タ リンのそ れ と同様 の配置 を とってい る

もの と考 え られ る。窒 素原 子の原 子 芯が炭 素璽 それ に くらべ て大

きな核荷 電 を もってい るこ とは前 にのべた とお りだが,原 子 価電

子 に よる遮蔽 も不十 分 な ので 。(陰性摩 が 大 きい の で),窒 素 の原

子 芯の ポテ ンシ ァル場 は炭 素 に くらべ てか な り強 くな るはず で あ

る◎ そ の差 に対 応 す るエ ネル ギ,.一.パラ メーターが δNと い うこと

が で きる◎ しか し δN-0・0と 、して も921-1・223と な り21の 位

置 は π電子 が局在 化 しやす い。 これ は ポル フィ ン分子 の幾 何学的

形 態 に由来 す る もの であ る。δNを 増 す と421は か な り急激 に増

加 す るが δN<0.75で は92ズ は1.5よ り小 さ く δN>0.75に な

っては じめ て1・5を こえ る よ うにな る。¢2三が増 せば,こ の原 子

上 にお け る電子 間1の反 パ ツエ ネル ギ ーを増 すか ら δNは 無 制 限 に

大 き くなる こ とは で きない 。 δNの 変化 によって窒 素原子 以 外 の

π電子 密度 は それ ほ ど大 き な変 化 を示 さない し,大 きな形 式荷 電

を生 じるとい うこと もない。σ1は1.011~1.085で,δ 揮 の値 の

と りか た によ ってあ ま り変化 しない し,内 側 の共 役 系か ら外側 の

結合 系 に流 出 してい る π電子 が少 ない こと もわか る。

ポル フ ィンの 分子 構 造 はまだ 決 定 され ていな い。 ここで 計 算

した ρ・・か ら原 肴 聞距 離 を 求 め ると20-1は1.37A,1-2は

1。42~1., t i2-3は1.40~L42A,2-21は1.34~1.40Aと な

(4)

12) L. Pauling, " Contrib. etude structure mol." Vol. Commem . Victor Henri 48, 1 (1947).

*3配 位 結合 で窒素 配位子 か ら金 属 イオ ンに むか ってな され る``¢ha∬3etra薫s・

fex "の 度 合は中心 金属 イオ ンの種類 に よって ことなるが,そ の ために おこ

る π 電子 系の変 化は 伽 の変化 に ともな う オ電 子系 の変化 として理 解す る

こ とが で きる.``chargeiransfer  "力 母大 きい場 合 には窒素 原子 の陰性 度

は増 し,し たが ってmは 大 きくなる、 ,,.*4ポ ル フ ィン{tri)3・5♪ 。L・ ピ リジ:/侮)・ ρノ ピmル(tri)・ ρノ

る・外側 の結 合20-1は 短 く・エチ レンの1・34Aに 近い。結合1

驚2は か な り長 くな ってお り・ 二 重結 合性が 乏 しくな っているO

Robertsonユ3)に よ るフ タロシ アニ ンのX線 解析 の結果 によれば,

外側のべン㌣ 核はベンゼンの織 距寓 ・39Aを 保存しており,

内側 の共 役 系 とベンギ ン核 とを結 びっ けてい る結合 は1  ; 1と

長 くな り・二 重結 合性 に乏 しい もの にな ってい る。一方 フタロシ

アニ ンの分子軌 道法 によ る計 算結 果はX線 解析 の結 果 とよ い一致

を示 してお り・上 の事 実 も よ く反映 してい た*%し たが って分子軌

恥道法 の計 算結 果は よ く原 子間 距離 を予言 で き るもの と考 え られる

か ら・δNが こ こで とった 範 囲 にあれば上 でえ られ たポルフィン

命 子 の結合 距離 は正 しい もの とな ろ うρ π電子 系は相互作用が比

較的小 さい と考 え られ る外 側 の二重結 合 と内側 の共役 系にわ けて

考 え られ る◎外側 の二 重結 合は分 子 内 でも保 存 され てお りy内 側

の共役 系か ら流 れ出 してい る π電 子 は少な く,内 側 の共役系 と外

側 の二 重結 合 を結 びっ けてい る結 合 も長 くな ってい る。一方 内側

の共役 系は ほ とん ど18個(17.32~17・91)の π電 子 によって占

め られ てい る◎

ポル フ ィンの反応 性 はそ の接触作 用 との関連 で興味 ある問題で

ある・接 触作用 には中心 金属原 子 とπ電子 系 とが と もに関係 して

い て・そ れぞれ の役 割 りを もってい る◎ ここでは計算 の性質上問

題 を π電子 系だ け に限定 して考 察す る。 イ オン性置換 反応に対す

るCoulson,L◎nguet-Higginsの 考 却6)に よる と,求 電子試薬

は π電 子密 度9・ お よび 自己分極 率 π,,の 大 きい位 置 に作用 し,

求 核試 薬 は 争 が小 さ くiπ プ,の大 きい 位 置 に 作 用す る。の は

21が 最 大 で3ま たは2が 最小 であ る。 これ か ら 判 断す ると,求

電子 試薬 が ポル フ ィン分子 に近 づい た と きには21に 作用 し,求

核試 薬 な らば3ま たは2に 作用 す る ことにな る。一方 フ ロンティ

ア電子 密度 は3が 最大 で,求 核,求 電 子反 応 とも3で お こ りやす

い こ とにな る。 求核反 応 につい ては二 つ の考 え方 が 同 じ結論 を与

え てい るが,求 電子反 応 につい ては異 な った予言 を している。そ

れ は π7プを考 慮 しなか った ためか も しれな い。 こ こでは 銑t'は

計 算 しなか ったが,フ ロンテ ィア 電子 密度 の 大 きい ところでは

π揮 は大 き くな るか ら,π γア幡3が 最 大 であ ろ う。9ア の大 きい21

のほか に π鐸 め大 きい3も 反 応 しやす いの だ とい うことに もな

るのか も しれ ない ・ しか し 軸 が増加 す る と伽 は急激 に増 しf

2善 の反応性 は圧 倒的 に 強 くな るはず で あ る。 フ ロンテ ィア電子

13)J.MR◎berts◎ 訟,J.Cherh.SaeO1936 ,1195.*5L◎nguet-Higginsら がポルフィンに適用した分子執道理論 をフタ0シ

アニンに拡張する.伽 コα0としたときの含εが求められiこれからd rs

361を 算出することができる・その結果はt  ` ,としたにもかかわらず実測と

図9フ タロシアニン分子骨格

非常によい対応をしめしているO

drs(A)ρ78

1-360639

1-20665

2-306Q8

3-340555

3-4041⑪

4-50587

4-370,588

計 算値 実 測値

ユ391、39

139ユ39

14Q139

ユ42139

ユm149

135134

1.351.34

(昭和27年,日 本化学会錯塩討論会)Pcxllmanら14)も 同じ方法で軌道エ

ネルギーと分子図を求め報告している0そ の結果はわれわれの結果と一致し

ているが,電 子スペクトルに対する電子転移の帰属をまちがえている、これ

については続報で論 じるOBasu15>も 計算しているが 初めに群論の適用を

あやまったため,結 果は討論の役に立たないものになっている.

14) A. Pullman, G. Berthier, Compt. rend. 236, 1494 (1953). 15) S. Basu, Indian J. Phys. 37, 511 (1954). 16) C. A. Coulson, H. C. Longuet-Higgins, Proc. Roy. Soc. 102.A,

16 (1947).

Page 5: 日本化学雑誌 第81巻 第4号 - JST

(5) 小林:ポ ル フィ リン環 状化合 物 の電 子構 造 と電 子 ス ペ ク トル(第1報) 523

密度 ノタは ほ とん ど3と21に 存 在 して い るが,δNの 増加 とと

もに ∫君 は急激 に減 少 して しま うか ら3の 方 が圧 倒的 に反応 し

やすい ことにな る・ ポル フ ィン分 子 の よ うな 多電子 系 に対 す る求

電子反応にお い て・ 最 も高 い`cみ た された 軌道"の 電 子 だけが フ

ロンテ ィア電子 であ りうるか ど うかは 疑問 で あ る。全 部 の π電子

で反応性 を論 じるか,ご く反応 しやす い π電 子 だ けで反応性 を論

じるか はそれ 自体 議 論 の余地 をの こ してい るが,と くに多電子 系

では どの電子 が ご く反 応 しやす い のか を指定 す る ことが むつか し

くなって くる◎ しか しいず れ にせ よ求電子 試 薬は3ま た は21を

攻撃す るこ とは た しか で あ ろ う。 ラ ジカル反 応は 自由原子 価 が大

きい位 置 でお こる と 考 え られ るか ら21,3ま た は1が 反応 しや

すいこ とにな る。 フ ロンテ ィア 電 子密 度 ノタは3と21が 大 き

くfそ こが反 応性 に とんで い る ことにな る。窒 素の1>翫x=ゾ 冨

としたの で ・F21の大 き さには議 論す べ き点が の こされ てい るが,

娠 を増 した場 合F2三 は さらに増加 し,∫ 窮 は減 少 して しま う。

求電子 反応の場 合 と同様,全 部 の π電子 で論 じ るか,ご く動 きや

すい π電 子で論 じるか で結論 がか わ って くるよ うで あ る。二っ の

考え方 で結 論 は反対 にな るが,そ れで もラ ジカル 反応 は3お よび

21が 受 けやす い こ とは た しか で あ る◎ 結合 付加 反応 は ρ、、の大

きいところでお こるが,ポ ル フ ィンで は二 重結合 性 の強い20-1

におこる ことが 予想 され る。実 際水 素分 子が 付加 す るの は この位

置である◎

4.2電 子 スペ ク トル 、, 

最 も高い``み た された 軌道"は α2郡(3)で,こ れ に α掬(1>,

,`(3),δ2露(2),α 鋤(2)な どが これ にっ つい てい る(図1)。 最 低

の空軌道は69(4)で あ り,biu(2)が そ の上 に ある。 これ らの軌

道の間には α2蕗(3)→θ8(4),atu(1)→ θ8(4)i∂2〆2)一 ナ8g〈4),

a2tt(2)→69(4),68(3)→ う1露(2)な どの1電 子 転 移が 許容 され る。

ボルフィンの 励 起が この よ うな1電 子 転移 で 近似 され る とすれ

ば・励起 エネル ギ0は 関係 したごつ の軌道 の エ ネルギ0差 として

求められ る◎そ の結果 は図10お よび表8に 示 した とお りで,β

を単位 としてあ らわ され る。 これ らの1電 子 転 移は全 電子 系 の状

態についてみ るといずれ も 磁1ぎ→1E露 とい う転 移で あ るか ら,

1.5(3

lPβ

G5β

h"ω 一レe駐 輔

e3(3}→ レhu《 η

α綱 一『e豊`4}

b2♂・》→e告(4)

α蝋 ・ゆe3(今 ⊃

α 鷲")やe昏 働

QOQsl.Ol5

δ1v

図101電 子 転移 で生 じる励起状態

表81電 子 転 移 の エ ネ ル ギr

δ1>=0.0δ ハr二 〇.5δ.《1藁=0。8δ 」v=1.0δ 」v=・1轡5

α盆纒(3)→6g(4)0.36β

α1κ(1)→68(4)0.97β

ゐ2鉱(2)一→88(4>0・97β

α2麓(2)→6g(4)1.13β

88(3)→ ゐ1銘(2)1。24β

∂1潔(1)→6g(4)1.97β

6g(2)e→ ∂脇(2)1。81β

Loβ

α5β,

σ0β

0。50β0,57β

0.90β0。86β

1.09β1。17β

1.14β1.18β

1。43β1.55β

1簿90β1。86β

1.82β1.83β

0.60β0。65β

0.84β0.80β

1.22β1。33β

1.22β1。36β

1.62β1。73β

1.84β1.80β

1。84β1櫛91β

辱ρ

離鯛騨劇騨鳳醐ゆの〆〆 〆

奪■■騨

'fE

"に}

"飯 ω

`Af多

~fε 賦{2夢

欝 鞭欄

言'一"

ム'

縣一

ム'

}

`~ε 鉱ω.

ん3

σ5

し0

養}

δ遅

図11最 低 の励起 状態

各 電 子 配 置 は た が い に 相 互 作 用 を 生 じ,ま ざ り合 っ て し ま う 。 最

長 波 長 部 の 吸 収 帯 に帰 属 させ られ る電 子 転 移 に よ っ て 生 じた 励 起

状 態 は 大 部 分 Ψ1(E誕(1),α20(3)→ θg(4)),Ψ2(彦 ・(2),α1u(1)→

68(4)),%f… … な ど低 エ ネ ル ギ ー の1電 子 励 起 配 置 に よ っ て

配 述 さ れ る ◎ 最 長 波 長 部 の 電 子 転 移 に よ る励 起 状 態 が 一 応 凱 と

%と だ け で 記 述 さ れ る とす れ ば,二 つ の 励 起 状 態 処(Eu(1)),

弓グ2(Eκ(2))撃 ま

雪ρ「1-71(E忽(1))cosθ 一望2(E%(2))sinθ ,

Ψ2一 蟹1(E。(1))sinθ 十 璽ア黎(Eκ(1))cosθ

そ の 転 移 工 率 ル ギ ー 瓦,E2は

瓦 一 渥 一~/醸+(塀 一 万 一 」,

老2一 万+~/E蓬+(JE)2F亙+」

と な る ◎ こ こ で

2曾二 〔E巳1(E。(1))十 」璽2(E匡π(2))]/2

JE端 嵩一[Eエ(E臨 駕(1))一 亙2(亙 露(2))]/2

酢 漁1(E・(・)).  i(E翼(・))dτ

恥 露2(E・(2))H〃2(E・(・))dτ

H-H,∫ ノ+H「 母H,〃+Σ 」盛一

ηノ

ニつ の励 起状 態 の分裂 の大 きさ は配 置間 相互 作 用 の大 き さ 島2と

E露(1)・Eu(2)の エ ネル ギ ー差 」Eに よ って きま る.単 純 分 子軌

道法 の計 聡 果 に よれば ・ 恥 δ睦 力》え て もあ ま り大 き く変化

しな い評 均 して約0・71β で あ る.Eコ2も 認 も δ遅 の関 数 と

考 え られ るがElaの 大 き さ とEガ ヨ万 の大 き さにつ い て は こ こ

で馳 扱榎 かったがもしE・2撫 視できるほど小さい場 合に

は 盈儲島・E2衛現 となり・単一の励起配置で励起状態を記述す

Page 6: 日本化学雑誌 第81巻 第4号 - JST

524 日 本 化 学 雑 誌 第81巻 第4号(1960)

るこ とが で き る◎JEよ りE1鑑 の方 が十 分大 きい場 合 には分 裂の

大 きさ はE12に よって きま る ことにな る。 δNが 増 す と 施 は

ノ1、さ くは な るが,・ 凹に くらべ て非常 に小 さい とは いえ ない。 た と

え ば δ押=1・0で は躍 譜0.71β,JE』0.12β とな る。E1=彦 一4,

.」E2=遡+4と おい て実測 め 吸収 スペ ク トルの*0か ら 亙,4を 評価

しみ よ う。第 一吸 収帯 は16100cm顯1,第 二吸収 帯(Soret帯)は

23700cm一 ユにあ るか らE-19900cm-1,」=3800cm織 とな

る。」野一〇・71β とお き βを求 め る と β詔28000cm-1と な る。 」

は これ を単位 とす る と0・14β となる。 したが って 」 の大部 分が

JEに よ って占 め られ て しま うことにな るα従来 しば しば配 置間

相互 作 用 を無 視 し,単 一 の電 子励 起配 置だ けで吸 収帯 を説 明す る

こころみが な されて きた1弊)6)。それ は上 のよ うな事情 で計算 と実

測 が偶 然一 致 した もので あ ろ う。砺 を適 当 にえ らべ ば 単一 の電

子励 起 配置 だ けで近似 して,従 来 え られた もの よ りもっ と数 値的

に実測 と一 致 させ る こと もで き るφN-0.9)。 しか し その 伽 が

どん な物理 的な意 味 を もってい るか は も う少 し計 算 を進 め てみな

い となん と もい えな い。現 実 には 」の うちで配置 間相互 作用E12

の占 めてい る部分 は決 して無 視 で きないはず で,粗 い 近似 でE

が 」 の大 部分 を 占めたか らとい って ・E12が非常 に小 さい とい う

こ とは で きない。 配置 間相互 作用 は Ψ1と 偽 の 間の もの しか考

*6Seely6)の データによれば亜鉛テトラフェニルポルフィンは第一吸収帯が620颯μ,第二吸収帯が422鯨 μにピ0クを示している.金属塩でないとN-H…N互 変異性や分子の変形によって電子スペクトルが複雑化してしま

う.分子構造の対称性がよくiほとんど1)4hと みなせる金属誘導体をえらんだ0

(6)

えなか…う喪 か現実 には 望3・望4…… な どの寄与 も無視 することは

で きな い。 これ らを考 慮 した場 合0ご つ の転移 エ ネル ギーはごく

粗 くつ ぎの よ うに近似 され る◎り のげ のレ る0

E1'鐸 島 一潅轟{(E・ 潅)霊/(Eλ一Eユ)}嵩(E-∠)一 δ・一 面L4・

り  ヒ ゆ ゐ ロコ

」E2'儲 」ε2一

λ混2{(E2濃)a/(」Eヨ 」匡一E2)}=(E+∠ 」)0δ 諺一 」醒藤+4,

こ こで

ゑ弐一∫蜘dち 彦2λ一∫蜘 えとち

__11刃 」E一 至「(δ・+δ露)・ ∠』 ∠-7(t  t)

り0り

とな る・δbδ 驚は ともに正 で あ り・(Eλ一βユ)〉(恥 一E2)だ から

E1為E2λ が 同 じ くらい の大 きさ とす れば δ二くδ實とな る。 したが

ってE'<瓦d'<4と な る こ とが予想 され る。互 と0を 実測

と対 応 させ た ときとま った く同 じよ うに 瓦 「嵩19900cm一 ユ,」」

3800cm需1と な る◎ もち ろんEfはE(儲0.71β)よ り小 さいか

ら,β は前 に求 めた の よ り大 き くな るはずで あ る。 また ガ は0

よ りい く らか小 さい はずだか ら 」 は3800cm一 糞よ りも大 きくは

な るだ ろ うが,こ の うちでE12の 占め る大 きさ は ここまでの計

算で はな ん ともいえな い。

終 りに本研 究 を行 な うに あた り終 始御 指導 い ただいた東京工業

大 学 の稲村 耕雄教 授 に深 く感 謝す る。 また協 同研究 者であ る鳥居

泰 男氏 や物理 化学 教室 の田中 郁三博 士,森 雄 次氏 には有益な討

論や教示 を うけ た。併記 して感 謝 の意を表す る。

吸 着 過 程 の 確 率 論 的 考 察

(昭 和34年3月9日 受 理)

石 田 健 二†

単分 子層 吸着一離脱過 程 を時間 的に い ちよ うなMark◎v過 程 として取 り扱 うな らば,・・平 均値 にお いて・・かつ 吸着分 子 と気相申

の分 子 との相 関 をのぞ いて普 通 の決定論 的 な吸着速 度式 あ るい は平 衡吸着 式が 得 られ る。 ま た この過程 に対 す る確率微分 方程式を

解 いて吸 着分 子数 に関す る確 率分 布 は二 項分 布 にな る ことを示 し,平 衡状 態 にお ける吸着分 子数 の くゆらぎ 〉 と熱力学 的関数 と

の 関係 を求 め る◎ 多分 子層吸 着一離脱過程 に対 して も同様 の方 法 を用 いてB.E.T。 吸着式が 導 かれ る こ とを示 す 。

1緒 言(Langmuir吸 着式について)

単分 子層 吸着 一離脱 過程 につ い てLangrnuirz」 が用 いた と同 じ

仮驚 に した が って吸着 媒表 面の 吸着点 は物理 的 に同等 で あ り,各

吸 着点 には1分 子 しか 収容 で きず,か つ吸着 分子 間 には相互 作用

もない ような 体 系 につい ての吸着 一離 脱過 程を考 え る。 この体系

は温度 お よび 外部 パ ラ メー ターが 一定 で あ り,普 通 の化 学反 応速

度 論 におい て 用 い られ て い ると同様 に 全過 程 を 通 じて 混度 平衡

(thermal  equilibrium)2)に あ る もの とす る。 この よ うな条件 の

も とでは,時 間 間隔(0,の に吸着 された 分 子数 を 鵡 ⑦ で表

わ すな らば,す べ ての任 意 の しか も固 定 され た値 ∫>0に 対 して

鑑 の は確 率変 数 であ り,非 負 の整数 しか と り得 ず,ま た 実験的 に

知 られ てい る よ うに'が 増大 す る ととも に決 して減 少 しない 。t

† 東京工業大学,東 京都目黒区大岡山

1) I. Langmuir, J. Am. Chem. Soc. 40, 1361 (1918) .2)堀 内,殿 村,66化 学反応 の統 計力学 η,P.94(1950)三 共出版.

が変 わ る と 魏(の は時 間 のパ ラ メーター 彦を もつ確 率変数 の集合

{鑑 ⑦}と な り,こ れ は確 率過程 であ る。 また吸着 一離脱過程の性

質か ら 現 ⑦ を知 った な らば,時 点 ∫以後 の過程 は確率 の意味

で時 点 ∫までの経 過 には独立 で あ るか らこの確率過 程はMarkov

過程3)で あ る。 さ らに体 系が 温度 平衡 にあ る とい うことか らこの

吸着一離脱過 程 は時間的 にいち よ うなMarkov過 程4)で ある・

この よ うに 単分 子層 吸着一離脱 過程 を 確率過 程 として取 り扱 う

な らば,時 点 渉にお け る吸着 分子数 が ハら,気 相 中の分子数が1V8

であ る とき(瓦+1V8-1>6-一 定)3つ ぎの時 間間隔(',≠+」 の

内 に ノV8個 の 気体 分子 の うちいず れか 一・つが(ハ な・瓦)個 の吸

着 点 のいずれ か一 つ に吸 着 を起す推 移確 率P砺 →砺+1(4の は

λ1V8(NS一 瓦)dt+o(4彦)*1,

3) W. Feller, " An Introduction to Probability Theory and its Applications" p. 363 (1950) John Wiley & Sons Inc., New

York.

4) " ibid " p. 386.*1二 つまたはそれ以上の事象のおこる確率をo(dt)で 表わす. oはLandau

  の紀弩である.