TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の ... - JST

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日本金属学会誌第64巻第2号(2000)85-94 TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の影響*1 野中勝彦1 藤井秀樹2 中嶋英雄3 1岩手大学工学部材料物性工学科 2新日本製鐵株式会社鉄鋼研究所 3大阪大学産業科学研究所 J.Japan Inst. Metals, Vo1.64, No.2(2000),PP.85-94 ◎2000The Japan Institute of Metals Effect of Oxygen in Titanium on Reaction Diff皿sion between Ti an Katsuhiko Nonaka1, Hideki Fujii2 and Hideo Nakajima3 1Dゆαγ醜魏げル徊6磁Zs 86伽。θ伽471θo伽010即,1勉6〃砂(ゾ翫g伽67勿8;1伽α’θ翫勿θ7s勿,ル1漉。んα020-8551 2S云6θ11~6560:κ乃Lα∂o名α’07∫θs,ノ〉吻)oフ¢S云θθ1 Coη)oηガ。%,、Fz6泥3z4293-85エエ 37物恥面戸θσS6伽’刎6απ4動郎伽11~θsθαπ尾Osα々α翫勿θ駕勿,乃α名曲567-0047 Reaction diffusion in Ti/Al and Ti-5 mo1%0/Al diffusion couples has been investigate Only one intermetallic compound TiA13 was observed as an intermediate phase in a tempera the diffusion couples. Si, an impurity element in aluminum, was concentrated in TiA13. T turned out to be diffusion limited.;the activation energy was estimated to be 237±15 kJ of square of the rate constant,ん2, for layer growth can be described with the following equ 773to 903 K in the Ti/AI diffusion couples. ん2TiA1、=3.5 exp[一(237±15)kJ mol-1/」配丁]m2 s-1 1n the case of the oxygen doped diffusion couples, the layer growth of TiA13 was signific energy was 263±7kJ mol-1 for temperatures from 773 to 873 K. The suppression is exp between aluminum and TiA13. The Kirkendall marker was shifted toward the aluminum sid AI is faster than that of Ti in the intermediate phase. (Received August,9,1999;In Final Form November 8,1999) K⑳ωords:≠吻脇初,α1襯勿媚, Tゴー5勉01%0α1勿,4伽s加60ゆ16,7θαcオゴ。π4伽sガ。%,勿〃970ω漉,傭6捌θ伽渉6助αs6,π1413 K〃たθ雇α〃吻6≠ 1.緒 チタン合金は,比強度が高く航空,宇宙機器用および海洋 関連材料として広く利用されている.近年では,製造コスト を低減したり,新たな機能を付与するため,素粉末混合 法1・2)などのnear net shape技術や,最も多量に使用されて いる金属材料である鋼やA1など異種金属との接合技術3)な ども検討されている. これらの技術では,チタンと他の金属の反応拡散がその過 程で起こっている場合が多い・例えば,素粉末混合法では, 焼結は主に表面拡散により支配されているが,合金化の過程 では一種の反応拡散が起こっている.また異種金属との接合 方法のひとつである拡散接合は,まさに反応拡散そのもので ある.さらに,チタンとアルミニウムや鋼からなるクラッド材 も焼鈍等の熱処理工程では,同様の拡散現象が起こっている. 以上のように,反応拡散は工業的にも興味を持たれる現象 であるが,TiとAlの反応拡散については,これまで, Ti とAl系のバルクの拡散対を用いた相互拡散および状態図に 関する研究4-10)や,TiとAl(Cu)の薄膜の拡散対を用いた, 集積回路のメタライゼイションなどの界面における相互拡散 *11994年3月および1995年4月,日本金属学会春期大会におい て発表 に関する研究が行われている11-14).van LooとRieck4)は バルクのTiとA1の拡散対を用いた反応拡散を789~915 K の温度範囲で行い,中間層としてTiA13相のみが生成するこ と,および,この層成長は放物線則には従わないことなどを 報告している.一方,他の研究者ら7,10)14)は,TiとAlの拡 散対に生成するTiA13相の層成長は放物線則に従うことを報 告している.このように,中間層の層成長に関しては必ずし も一致した結論が得られていないのが現状である. また,Tiは活性な金属で,、表層には酸化皮膜や酸素濃化 層が存在しており,これら酸素も反応拡散過程に強く影響を 及ぼしていると考えられ,これを明らかにすることは工業的 にも重要である.ところが,酸素を添加したTiとAlの反 応拡散の研究に関しては,著者ら10)の報告があるのみであ り,さらに詳細な研究が待たれている. そこで本研究では,TiとA1およびTiに酸素を5mol% 添加したTi-5 mo1%0合金とA1からなる拡散対を用いて反 応拡散実験を行い,中間層の成長挙動を詳細に解析し,それ に及ぼす酸素の影響について調べたので,その結果について 報告する. 2.実 供試材は工業用純Ti棒(純度98.7 mass%)およびヨード

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日本金属学会誌第64巻第2号(2000)85-94

TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の影響*1

野中勝彦1 藤井秀樹2 中嶋英雄3

1岩手大学工学部材料物性工学科  2新日本製鐵株式会社鉄鋼研究所  3大阪大学産業科学研究所

J.Japan Inst. Metals, Vo1.64, No.2(2000),PP.85-94

◎2000The Japan Institute of Metals

Effect of Oxygen in Titanium on Reaction Diff皿sion between Ti and Al

Katsuhiko Nonaka1, Hideki Fujii2 and Hideo Nakajima3

1Dゆαγ醜魏げル徊6磁Zs 86伽。θ伽471θo伽010即,1勉6〃砂(ゾ翫g伽67勿8;1伽α’θ翫勿θ7s勿,ル1漉。んα020-8551

2S云6θ11~6560:κ乃Lα∂o名α’07∫θs,ノ〉吻)oフ¢S云θθ1 Coη)oηガ。%,、Fz6泥3z4293-85エエ

37物恥面戸θσS6伽’刎6απ4動郎伽11~θsθαπ尾Osα々α翫勿θ駕勿,乃α名曲567-0047

  Reaction diffusion in Ti/Al and Ti-5 mo1%0/Al diffusion couples has been investigated by electron-probe microanalysis.

Only one intermetallic compound TiA13 was observed as an intermediate phase in a temperature range from 773 to 903 K in both

the diffusion couples. Si, an impurity element in aluminum, was concentrated in TiA13. The growth of the intermediate layer

turned out to be diffusion limited.;the activation energy was estimated to be 237±15 kJ mo1-1and the temperature dependence

of square of the rate constant,ん2, for layer growth can be described with the following equation in the temperature range from

773to 903 K in the Ti/AI diffusion couples.

               ん2TiA1、=3.5 exp[一(237±15)kJ mol-1/」配丁]m2 s-1

  1n the case of the oxygen doped diffusion couples, the layer growth of TiA13 was significantly suppressed and the activation

energy was 263±7kJ mol-1 for temperatures from 773 to 873 K. The suppression is explained by aluminum oxide formed

between aluminum and TiA13. The Kirkendall marker was shifted toward the aluminum side, which suggests that diffusion of

AI is faster than that of Ti in the intermediate phase.

(Received August,9,1999;In Final Form November 8,1999)

K⑳ωords:≠吻脇初,α1襯勿媚, Tゴー5勉01%0α1勿,4伽s加60ゆ16,7θαcオゴ。π4伽sガ。%,勿〃970ω漉,傭6捌θ伽渉6助αs6,π1413,

    K〃たθ雇α〃吻6≠

1.緒 言

 チタン合金は,比強度が高く航空,宇宙機器用および海洋

関連材料として広く利用されている.近年では,製造コスト

を低減したり,新たな機能を付与するため,素粉末混合

法1・2)などのnear net shape技術や,最も多量に使用されて

いる金属材料である鋼やA1など異種金属との接合技術3)な

ども検討されている.

 これらの技術では,チタンと他の金属の反応拡散がその過

程で起こっている場合が多い・例えば,素粉末混合法では,

焼結は主に表面拡散により支配されているが,合金化の過程

では一種の反応拡散が起こっている.また異種金属との接合

方法のひとつである拡散接合は,まさに反応拡散そのもので

ある.さらに,チタンとアルミニウムや鋼からなるクラッド材

も焼鈍等の熱処理工程では,同様の拡散現象が起こっている.

 以上のように,反応拡散は工業的にも興味を持たれる現象

であるが,TiとAlの反応拡散については,これまで, Ti

とAl系のバルクの拡散対を用いた相互拡散および状態図に

関する研究4-10)や,TiとAl(Cu)の薄膜の拡散対を用いた,

集積回路のメタライゼイションなどの界面における相互拡散

*11994年3月および1995年4月,日本金属学会春期大会におい て発表

に関する研究が行われている11-14).van LooとRieck4)は,

バルクのTiとA1の拡散対を用いた反応拡散を789~915 K

の温度範囲で行い,中間層としてTiA13相のみが生成するこ

と,および,この層成長は放物線則には従わないことなどを

報告している.一方,他の研究者ら7,10)14)は,TiとAlの拡

散対に生成するTiA13相の層成長は放物線則に従うことを報

告している.このように,中間層の層成長に関しては必ずし

も一致した結論が得られていないのが現状である.

 また,Tiは活性な金属で,、表層には酸化皮膜や酸素濃化

層が存在しており,これら酸素も反応拡散過程に強く影響を

及ぼしていると考えられ,これを明らかにすることは工業的

にも重要である.ところが,酸素を添加したTiとAlの反

応拡散の研究に関しては,著者ら10)の報告があるのみであ

り,さらに詳細な研究が待たれている.

 そこで本研究では,TiとA1およびTiに酸素を5mol%

添加したTi-5 mo1%0合金とA1からなる拡散対を用いて反

応拡散実験を行い,中間層の成長挙動を詳細に解析し,それ

に及ぼす酸素の影響について調べたので,その結果について

報告する.

2.実 験 方 法

供試材は工業用純Ti棒(純度98.7 mass%)およびヨード

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86 日本金属学会誌(2000) 第 64巻

法により作製された高純度Ti(純度99.9 mass%)に5mol%

の酸素を添加したTi-0合金および工業用純Al棒(純度

99.2mass%)のいずれも多結晶材を用いた. Table 1にその

化学分析値を示した.

 ここで,Ti-0合金は,高純度のヨードTiにTio2を添加

し,アルゴン雰囲気中でアーク溶解することにより製造し

た.さらに,この合金は電子ビーム浮遊帯溶融法(electron

beam floating zone melting, fz法)により再溶解し,溶解ま

ま材を準備するとともに一部を1193Kにおいて72 ksの

間,均質化焼鈍を行った.他のA1およびTi母材は工業用

市販材をそのまま用いた.上述した各供試料から,直径13

mm,高さ7mmあるいは直径7mm,高さ6mmの円柱状試料を切り出し,円柱底面をエメリー紙(#240~#800),

ラッピングテープ(#2000,#4000,#6000)そして粒度1

μmのダイヤモンドペーストでパフ研磨し,鏡面状態に仕上

げた.

 拡散対の作製は,鏡面研磨した試料を研磨面で突き合せ,

ステンレス鋼製のクランプホルダーに挿入し,両側よりかし

めることにより荷重をかけ,これを823Kで3.6 ksの間,

保持後,空冷することにより行った.この時,熱処理中の雰

囲気からの汚染を避けるため,ホルダーはジルコニウム箔ゲ

ッターで包み,さらにジルコニウム箔で包んだスポンジチタ

ン塊と一緒に石英管に入れた.石英管内部はアルゴンガス

(純度99.9995%)を3.6ks以上流すことにより高純度のアル

ゴン雰囲気に置換し,その後の昇温,保持,冷却中も常時ア

ルゴンを流し続けながら熱処理を行った.取り出した拡散対

は接合面と垂直に4等分し,反応拡散実験に供した.

 拡散対はジルコニウム箔に包み5×10-4Pa以下の真空度

で石英管内に封入後,所定の温度で所定の時間拡散焼鈍し

た.拡散焼鈍後,試料は石英管ごと水中に急冷し,表面拡散

の影響を除くため表面層を0.5mm以上削除し検鏡面とした.

 組織観察および中間層の層厚測定は光学顕微鏡,走査型電

子顕微鏡(SEM),日本電子製JXA-8621SX/MXの二次電

子像および反射電子像を用いて行った.実験結果で述べるよ

うに,溶解材Ti(0)/Al拡散対においては中間層の層厚が不

均一であったため,組織写真から中間層の一定長さの面積を

求め,それから平均層厚を求めた.A1, Ti, SiおよびFeの

含有元素分布の定性および定量分析は上述のSEMに付帯し

たX線マイクロアナライザー(EPMA)の波長分散型分光器

により行った.また,酸素および微量のFeの分析には別の

EPMA(日本電子製JCMA-733)も使用した.溶解材Ti(0)

および焼鈍材Ti(0)の組織解析は透過型電子顕微鏡(TEM)

日本電子製JEM400FXを用い,微少領域の分析は, TEM

に付帯したエネルギー分散型X線(EDS)分析により行った.

薄膜試料は過塩素酸:ブタノーール:メタノール=1:6:10

の混合液を用いて233~253Kで電解研磨を行うことにより

作製した.中間相の同定にはCuをターゲットとするX線

回折装置(理学電機製のロータフレックスRU-200B)を使用

した.

3.実 験 結 果

3.1 溶解材Ti(0)合金および焼鈍材Ti(0)合金の組織

 Fig.1にfz法により作製した溶解材Ti(0)合金の光学顕

微鏡組織(Fig.1(a),(b))およびTEM解析結果(Fig.1(c),

(d))を示した.Fig.1(a)の横断面組織に示されているよう

に溶解材Ti(0)合金には粒径数:mmの結晶粒が存在し,粒

内には多数の網目状組織が観察された.また,Fig.1(b)の

縦断面組織では,40~100μm程度の間隔で平行に並んだ直

線状組織が観察された.この間隔はFig.1(a)の網目状組織

の間隔と一・致しており,両者は凝固方向に成長した柱状晶の

境界部に対応するものと考えられる.Fig.1(c)は,この組

織をTEM観察した結果であり,直線状組織の中央には,矢

印で示したように幅0.1~0.2μmの第二相が観察された.

この第二相をEDSで分析すると, Fig.1(d)に示すように

Feが=濃化していることがわかった.なお, Fig.8(c),(d)に

て後述するように,このFeが濃化した直線状組織の間のTi

マトリックス中には酸素が偏析していることがEPMAによ

り確認された.

鯵鱗撫1脚下{ll:

second phase↓,

Table l Chemical compositions of materials used.

Concentration(mass%)(b)、

冨.、

Ti Fe C N 0

Commercia1 98.7  0.047  0.011  0.007    0.117grade Ti                        (0.35 mol%)

99.9 〈0.001 <0.001 〈0.001 (5.O mol%O added)

曽 ,

Indize Ti

200μm

Cur・50r 810.239koV 曾 5      RO1   《9) 0.㈹!O・②②0

(d)

亡懸紙L

 π          「         ,

撫甘.耳 T

試=一・ ee-Kα…

。、器㌦2、。_脚,RT.5,369_ 騙。妻:3エ02仰

Concentration(mass%)

Al Mg Si Fe Mn Cu

Commercial      99.2     0.20     0.27     0.15     0.11    <0.01grade Al

Fig.1 Microstructures of(a)transverse and(b)10ngitudinal

sections of Ti-5 rnol%O alloys prepared by the floating zone

melting.(c)TEM micrograph and(d)EDS analysis for thesecond phase shown by an arrow in(c).

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第 2 号 TiとA1の反応拡散に及ぼすTi中の酸素の影響 87

 Fig.2(a)に溶解材Ti(0)を1193 Kにおいて72 ksで均質

化焼鈍した焼鈍材Ti(0)の縦断面組織の反射電子像を示し

た.溶解材Ti(0)に観察された直線状組織は消失し,試料

研磨時に生成したと思われる双晶のみが観察された.Fig.

2(b)にTEM観察の結果を示した.焼鈍により第二相の大

部分が消失し亜粒界のみが観察された.この亜粒界部分を

EDSで分析するとFig.2(c)に示すようにFeの濃化はほと

んど認められず,Feは焼鈍によりほぼ均質化していること

が確認された.

3.2 Ti/Al拡散対の反応拡散

 Fig.3には903 Kにおいて28.8 ksの間,拡散焼鈍した

Ti/A1拡散対の接合界面近傍における反射電子像(Fig.3(a))

とFig.3(b)一(e)にはそれぞれTi, A1, SiおよびFeの定性分

析像を示した.Fig.3(a)の接合面には約19μmの中間層が

生成していた.この中間層の層厚はほぼ一定であり,その界

面も直線的であった.また,拡散対におけるTi母材の平均

結晶粒径は約100μmの等軸粒であったが,生成された中間

層の平均結晶粒径はA1界面側では約5μmでTi界面側では

1μm以下のいずれも微細な等軸粒であった.Fig.3(b)およ

びFig.3(c)からわかるように, TiとAlにはEPMAの分析

精度の範囲においては母材中への相互の原子の固溶は認めら

れなかった.また,定量分析の結果から,中間層の中には

Siの濃化が観察された(Fig.3(d)). RamanとSchubert15)

はTi-A1-Si三元系の化合物としてTi7Si12A15の存在を報告

しており,Bower11)はSi基板に堆積させたTiとA1の二層

薄膜の相互拡散の研究においてTiA13へのSiの固溶につい

て報告している.本実験においては,A1母材中に不純物と

して含有していたSiが中間層に移動して固溶したものと考

えられ,中間層中のTi:(A1+Si)の割合はほぼ1:3であっ

た.この中間層のSi濃度は拡散焼鈍条件により異なり4~

11mo1%の範囲で変化した.また, Fig.3(e)に示すように

Cuト賢oN 1⑦2コ②k。V・O   R(91  (O、90②080㈹

(c)一一一一Ti-Kα一一一一

一一

一   一r  炉陣¶一輔

一} 一一一  一 『一 一

一一齢由  } -  亀一一一

一}k …甘工…一  一 一一  一} ,

…騨}   ■   一一一一 一 響凶一旧一   一一一一  贈  馴…『 } 一 一

一{   一 噂    }一

 1一伽     一   一

一 7 …  , 謝 …『 ee-Kα’

一一一     勝 一 申一  一      一 r翻 一   一  一 }  , 一  一    一隅鄭臼一

一h騨一 旧        } 一   囲   一一 一 脚一一 一隔_■一

……一一一…」 」 1

¢、穿、腿_,。加,町.。..c’1㌔;。1駕1脚

Al母材にはFeが含まれていたが,これは工業用アルミ

ニウムに含まれる不純物で[A13Fe, K5(A115Fe6Si5),

K6(A14FeSi)]16)として存在する晶出物である.

 Fig.4は903 Kにおいて108 ksの間,拡散焼鈍した

Ti/A1拡散対を中間層近傍で破断させ,その両方の破断面に

対してX線回折を行った結果である.黒:丸でマークした

(a)

Ti TiA13

鞭壌鰯

・10μm

A1

Fig.3 EPMA analyses for back scattered electron image(BEI)and X-ray images for Ti/Al diffusion couple annealed at

903Kfor 28.8 ks.

(a)BEI image,(b)Ti-Kαimage,(c)A1-Kαimage,(d)Si-

K、image and(e)Fe-K、 image.

宮モi

ε

包.首

29三

δ

α

8○

   \豊ρ

●3葺

§

5_98包恩●◇〆

5

TiA13:●

 Ti:O

 AI:◇

δ  ε愈く        く ね    ね         ◇ &一隻

露○亘§

go曾96●8誌/薯

琶● 5●   /

邑◇

5

Fig.2 Microstructure of longitudinal section of the Ti-5mol%O specimen, pre-annealed at 1193 K for 72 ks.

(a)Back scattered electron micrograph of SEM,(b)TEMimage and(c)EDS analysis for the sub-grain boundary in(b).

20。  40。  60。  80。  100。  120。

        2θ

Fig.4 X-ray diffraction pattern for the fractured surface of

the Ti/Al diffusion couple annealed for 108 ks at 903 K. The

specimen was fractured along the intermediate phase.

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88 日本金属学会誌(2000) 第 64巻

TiA13に相当するブラッグピーク以外には, Ti-A1系金属間

化合物のピークは現れていないことから,この中間層は

TiA13と同定された.

 な:お,773~903Kの範囲で拡散焼鈍した他の’Ti/A1拡散

対においても,中間層の厚さが異なる以外は,全て同様の特

徴の組織が観察された.

3.3 溶解材Ti(0)/Al拡散対における反応拡散

 溶解材Ti(0)/A1拡散対における中間層の成長は焼鈍温度

773~873Kの場合と903Kとでは全く異なる挙動を示した.以下にそれぞれの結果を別々に説明する.

3.3.1溶解材Ti(0)/Al拡散対の773~873 Kにおける反応

   拡散

 Fig.5は833 Kにおいて727 ksの間,拡散焼鈍した溶解

材Ti(0)/A1拡散対の界面近傍の反射電子像である. Ti-0

合金側には矢印で示したようにFeの濃化した直線状組織が

観察された.中間層の層厚はTi/A1拡散対(Fig.3)の場合と

異なり一定ではなく,界面は波状となっており,Ti-0合金

中の直線状組織が界面と交わる部分で中間層の層厚は大きく

なり,酸素が濃化したα一Ti相と接する中間層の層厚が小さ

いことが観察された.この波状界面の凹凸はTi側よりAl

側で特に顕著であった.

0燦、

0瑠、

Ti(0) T樹3 Al

Fig.5 Back scattered electron micrograph of the bonding in-

terface of the diffusion couple of the floating-zone-melted Ti-

5mo1%O and Al annealed at 833 K for 727 ks.

Ti(0)TiA13

恐難

藤:灘《 rノ

A1

50μm

lOW

0=(mass%)

   0

1

2

〈3

44

highintensity

   倉

interphasebounda巧7

Fe=(mass%)

ぐ0

0.1

Fig.6 EPMA analyses for the diffusion couple of the floating-zone-melted Ti-5 mo1%O and AI annealed at 833 K for 727 ks.

(a)SEM micrograph,(b)Si-Kαimage,(c)Fe-Kαimage,(d)0-Kαimage and(e)Fe-Kαintensity image around interface between

Ti(0)and TiA13.

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第 2 号 TiとA1の反応拡散に及ぼすTi中の酸素の影響 89

 Ti/Alおよび溶解材Ti(0)/Al両拡散対において,同一じ拡

散処理条件833Kにおいて727 ksの間に成長した中間層の

層厚を比較すると,Ti-A1拡散対の層厚は約49μmで均一

であったが,溶解材Ti(0)/Al拡散対においては層厚の大き

い部分は約37μmで,小さい部分は約20μmであった.し

たがって,溶解材Ti(0)/A1拡散対の中間層の層厚はTi/Al

拡散対と比較して,全領域で小さく,厚さの小さい部分だけ

でなく大きい部分も,その成長が抑制されていることが観察

された.

 Fig.6には833 Kにおいて727 ksの間,拡散焼鈍した溶

解材Ti(0)/A1拡散対(Fig.5と同一試料)の界面近傍の

SEM像(Fig.6(a))と同一一場所のEPMAによる組成分析像

(Fig.6(b)一(e))を示した.各図の右側に強度あるいは濃度

を色分けにより示した.Fig.6(b)はSiの定性分析像であ

り,溶解材Ti(0)/Al拡散対においてもTi/Al拡散対の場合

と同様に中間層にSiの濃化が観察された.また, Siの濃化

はAl側に凸になった部分で少し高くなっていた. EPMAに

よる定量分析結果よりこの中間相は,Ti/A1拡散対の場合と

同様にTi:(Al+Si)の割合はほぼ1:3であった.この中間

層中のSi濃度は拡散焼鈍条件により4~7 mo1%の範囲で変

化した.Fig.6(c)にはFeの定性分析像を示した.中間層中

のFe濃度はTi中と同じ程度に低く,Al母材中のような

Fe化合物の存在に伴う濃化は認められなかった. Fig.6(d)

は酸素の定量分析像である.図右側に色分けにより酸素の定

量分析値を示した.溶解材Ti(0)のFeが濃化した直線状組

織に相当する部分の酸素濃度は0から0.3mass%であるが,

直線状組織の間のチタンマトリックス(α一Ti相)では1~2

mass%(3~6 mol%)程度であった.また,溶解材Ti(0)に

存在する酸素は拡散焼鈍に伴い中間層生成界面に移動し,中

間層との界面に2~3mass%(6~9 mo1%)程度濃化している

ことがわかる.この酸素は中間派内には濃化せずに,中間層

を越えて移動しA1母材に到達したと考えられ,中間層とAl

界面では4mass%(11 mol%)と著しく高い酸素濃度になっ

ていた.Al中には酸素はほとんど固溶しないので,この部

分ではA1を主体とする酸化物が形成されているものと考え

られる.Fig.6(e)に溶解材Ti(0)と中間層の界面近傍にお

ける微量のFeの定量分析像を示した.溶解材Ti(0)に含ま

れる微量のFeおよびAl中に含まれるFeは中間相に固溶

し,酸素が濃化したα一Ti相と接する中間層,この場合は厚

さが小さい部分に特に濃化していることが観察された.

3.3.2溶解材Ti(0)/Alの903 Kにおける反応拡散

 Fig.7(a),(b)にはそれぞれ,903 Kにおいて焼鈍時間7.2

ksの同一条件で拡散焼鈍したTi/A1と溶解材Ti(0)/A1拡散

対の界面近傍のSEM像を示した. Fig.7(b)における中間

層の層厚は溶解材Ti(0)中のFeが濃化した直線状組織(図

中の矢印)と接する部分では約6μm,酸素が濃化したα一Ti

相と接する部分で約11μmとなっていた.この層厚の小さ

い部分はFig.7(a)のTi/A1拡散対の中間層の厚さ6μmと

ほぼ同じであった.したがって,溶解材Ti(0)/Al拡散対に

生成される中間層の層厚の大きい部分は,Ti/A1拡散対の中

間層より成長が促進されていることがわかる.また,この場

合の溶解材Ti(0)の直線状組織に対応する中間層の凹凸は,

(a)

Ti TiA.13 AI

  Ti(0)  TiA13(b)

   ノ ,漣∴掌G

b紳1二

轡漣1で〆

Al

Fig.7 SEM micrographs of(a)Ti/AI and(b)diffusion cou-

ple of the floating-zone-melted Ti-5 mo1%O and AI annealed

at 903 K for 7.2 ks.

Fig.5の833 Kの場合とは逆の成長挙動を示した.

 Fig.8に903 Kにおいて7.2 ksの間,拡散焼鈍した溶解

材Ti(0)/A1拡散対(Fig.7(b)と同一一試料)の界面近傍の

SEM像と,場所は異なるがその近傍のEPMAによる組成分析像(Fig.8(b)一(d):同一場所)を示した. SEM像(Fig.

8(a))には,中間層の層厚の大きい部分と小さい部分が交互

に現れている.また,Fig.8(b)に示したように, Siは中間

層に濃化し,特に層厚が大きくA1側に凸になっている部分

で濃度が高くなっていた.このことはFig.6(b)の833 Kの

場合と同『じであった.Fig.8(c)は酸素の定量分析像の結果

である.溶解材Ti(0)の直線状組織に相当する部分および

中間層中の酸素濃度は0~0.3mass%程度であり,α一Ti相

は1~3mass%(3~9 mo1%)程度である.このような酸素の

挙動をFig.6(d)の833 Kと比較すると, Fig.8(c)において

は溶解材Ti(0)に帯状に存在する酸素はFig.6(d)に示した

ような拡散対界面への移動は認められなかった.また,Fig.

6(d)で観察された中間層とAlの界面の酸化物はFig.8(c)

では観察されなかった.Fig.8(d)には溶解材Ti(0)と中間

層の界面近傍におけるFeの定量分析像を示した.溶解材

Ti(0)中のFeは酸素とは逆偏析していた.また,中間層に,

固溶したFeは, Fig・6(e)の833 Kの場合と同様に酸素が

偏析しているα一Ti相と接する中間層部分,この場合は層厚

の大きい部分に濃化していた.

 また,903Kにおいて59.4 ksの間,拡散焼鈍した溶解材

Ti(0)/Al拡散対を中間層で破断させ,その両方の破面に対

しX線回折を行った結果,Ti/A1拡散対(Fig.4)と同様, Ti,

Al以外にはTiA13のブラッグピークのみしか認められず,

この中間層もTiA13であることが明らかとなった.また,

Page 6: TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の ... - JST

90 日本金属学会誌(2000) 第 64 巻

ゴ⑨ TiA13 A1

50μm

0=(mass%)

10W

high

intensity

0

1

2

3

4

Fe=(mass%)

interphaseboundary

0.1

Fig.8 EPMA analyses for the floating-zone-melted Ti-5 mo1%O and Al diffusion couple annealed at 903 K for 7.2 ks.

(a)SEM micrograph,(b)Si-K義image,(c)0-Kαimage and(d)Fe-Kαintensity image around interface between Ti(0)andTiA13.

773~873Kで拡散焼鈍した他の溶解材Ti(0)/Al拡散対に

おいても,同様のX線回折の結果であった.したがって,

溶解材Ti(0)/A1拡散対に生成される中間層はTi/A1拡散対

の場合と同様にTiA13一相であることがわかった.

 以上のように,溶解材Ti(0)/A1拡散対においては焼鈍温

度903Kと833 Kの場合を比較すると, SiとFeの挙動お

よび生成される中間相TiA13は同じであったが,溶解材

Ti(o)の直線状組織または酸素偏析部に対応する中間層の成

長挙動および中間層成長における酸素の挙動は異なっていた.

3.4 焼鈍材Ti(o)/Al拡散対における反応拡散

 Fig.9(a)に903 Kにおいて180 ksの間,拡散焼鈍した焼

鈍材Ti(o)/Al拡散対の接合界面近傍の反射電子像を示し

た.焼鈍材Ti(0)/Al拡散対に生成する中間層はTi/Al拡散

対の場合と同様に,ほぼ一定の層厚で界面は直線的であっ

た.また,中間層のAl側には拡散対作製時に混入したA1203粉末が観察された. Fig.9(b)にはFig.9(a)の線上を

EPMAにより5μm間隔で点分析した結果を示した.縦軸

はTiの原子比率Ti/(Ti+A1)である.この濃度曲線におい

て,A1203粉末をマーカーにみたてMatano界面を決定した

ところ,Kirkenda11マーカーはMatano界面よりAl側に移

動していた.また,Kirkenda11ボイドはこの拡散対には観

察されなかった.

3.5Ti/Al,溶解材Ti(0)/Alおよび焼鈍材Ti(0)/Al拡散

  対における中間層の成長速度と温度依存性

 Fig.10にTi/Al,溶解材Ti(0)/Alおよび焼鈍材Ti(0)/

Al拡散対に生成した中間層TiA13相の成長の時間依存性を

示した.この図から溶解材Ti(0)/Al拡散対における中間層

の成長はTi/A1拡散対のそれより焼鈍温度773~873 Kの範

囲で約30~50%程度抑制されていた.一方,焼鈍温度903

Kでは溶解材Ti(0)/A1拡散対の中間層の成長は, Ti/Al拡

散対より逆に促進されていた.しかし,焼鈍材Ti(0)/A1拡

散対では,Ti/A1拡散対とほぼ同じ中間層の成長速度であっ

た.

 また,層成長の初期過程では潜伏期が存在し,それは,焼

鈍温度の低下とともに増大した.そして,その潜伏期間を過

ぎると,中間層の層厚は時間の1/2乗に比例して増大してい

た.いま,中間層が格子拡散によって成長するとみなされる

場合,それぞれの焼鈍温度において中間層の層厚∠κは拡散

Page 7: TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の ... - JST

第 2 号 TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の影響 91

(a)

(b)

1

Al

お 3差  歪6   6Σ  Σ↓    ↓  annealed Ti(0)

TiA13

10-12

10-13

 

≠10-14岩

ミ1r15

彪。.5

・§

10-16

11i

     71K950900 850  800  750

0

10一

。=Ti/AI

●=Ti(0)/Al

一150 -100  -50   0   50  100  150

     Distance, x 110-6皿

Fig.9 (a)SEM micrograph of diffusion couple of the an-nealed Ti-5 mo1%O and Al annealed for 180 ks at 903 K.(b)

Atomic ratio of Ti along the line in(a).

1.1   1.2    1.3

 7-111σ3K1

1.4

Fig.11 Temperature dependence of square of rate constant,ん2,for layer growth of TiA13 phase in the Ti/Al and as

floating-zone-melted Ti-5 mo1%O diffusion couples.

150

89藁

く100誠

5罫

霧5・

903K \

903K

圏△

  open symbois

  :Ti/AI  closed symbols  :Ti(0)/Al

十二annealed Ti(0)/A1

873K   △

↓ ↑   833K △   ↓

0

773K

0 5     10’1121102s1/2

15

Fig.10 Relation between layer thickness of TiA13 phase and

square root of diffusion time. Open and Closed symbols are for

Ti/Al, as floating-zone-melted Ti-5 mo1%O and Al and as

annealed Ti-5 mo1%O and Al diffusion couples, respectively.

時間の平方根≠1/2に比例して,直線関係を示し次式が成り立

つことが知られている.

          、」κ=ん石「          (1)

ここで,んは層成長速度定数である.拡散係数との対応を考

慮して式(1)を2乗したのが式(2)である.

          ∠κ2=ん2・≠       (2)

ん2の温度依存性がアレニウスの式で与えられると仮定して,

ん2の対数と温度の逆数1/T(K)をプロットした結果をFig.

11に示した.Ti/Al拡散対(Fig.11の白:丸)においては,ア

レニウスプロット中に引いた直線は温度範囲773~903Kに

おいて次の式で表される.

 Ti/Al拡散対:

 碍iAl、=3.5 exp[一(237±15)kJ mol-1/R T]m2 s-1 (3)

ここで,Rは気体定数(kJ mol-1),Tは温度(K)である.こ

れより,Ti/Al拡散対の中間層の成長のための活性化エネル

ギーは773~903Kの範囲で237±15 kJ mol-1で振動数項

は3.5m2s-1と評価された.

 また,溶解材Ti(0)/A1拡散対では,同様の直線(Fig.11

の黒丸)を773~873Kの範囲で引くことができ,それは,

次の式で表される.

 溶解材Ti(0)/Al拡散対:

  碍iA13=64 exp[一(263±7)kJ mo1-1/1~T]m2 s-1  (4)

これより溶解材Ti(0)/Al拡散対における中間層の成長のた

めの活性化エネルギーは773~873Kの温度範囲で,263±7

kJ mor1で振動数項は64 m2 s-1と評価された.チタン中

に酸素を添加することにより層成長が抑制されたことを示し

ている.

4.考 察

4.1 溶解材Ti(0)および焼鈍材Ti(0)の組織

 Fig.1(c)に示した溶解材Ti(0)中に存在する第二相は,

薄膜の準備中に優先的に電解研磨され,薄膜試料の厚さは著

しく薄くなっており,TEM観察において明瞭な回折像を得

ることができなかった.しかし,Feなどの強いβ安定化不

純物元素の影響でβ域からの冷却後も少量残留する未変態

β一Ti相と全く同様の組織形態であり17), Fig.1(d)に示した

ように著しくFeが濃化していることから,この第二相は未

変態のβ相であると考えられる.Ti(0)中のFeの含有量

(0.001mass%以下)は,α一Ti相の固溶限(約0.02 mass%)

以下と極めて微量なので,変態時の元素配分だけではこのよ

うな偏析は起こりにくいと考えられる.しかし,Feは著し

Page 8: TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の ... - JST

92 日本金属学会誌(2000) 第 64 巻

く凝固偏析しゃすい元素であり,凝固偏析部はα一Ti相の固

直感以上にFeが濃化し,変態時の元素配分でさらにFe濃

度が高くなり,その結果,安定化されたβ一Ti相が室温まで

残留したものと考えられる.以上のように,直線状組織は,

Ti(0)中に極微量含有されているFeが凝固偏析した部分で,

さらに,その内部にはFeが濃化したβ一Ti相が未変態で残

留した組織と考えられる.また,酸素は凝固ならびに変態時

ともにFeと逆の偏析傾向をもち, Fig.8(c),(d)のEPMA

分析結果にはその傾向が現れている.

 また,溶解材Ti(0)を1193 K,72 ksで均質化焼鈍する

と,第二相は消失し,Fig.2(b)に示したように亜粒界が観

察されたが,これは,溶解材Ti(0)中のβ一Ti相の両側のほ

ぼ同じ結晶方位のα一Ti相が,焼鈍時に成長,合体し,その

後に残った旧β一Ti相の痕跡と考えられる.

4.2 溶解材Ti(o)/Al拡散対における中間層の成長挙動

 溶解材Ti(0)/A1拡散対における中間層の成長は焼鈍温度

773~873Kと903品詞おいて全く異なる成長挙動であっ

た.以下にそれぞれの成長挙動の特徴について考察する.

4.2.1溶解材Ti(o)/Al拡散対の773~873 Kにおける中間

   層成長の抑制機構

 溶解材Ti(0)/A1拡散対に生成する中間層の層厚はFig.5

で示したように溶解材Ti(0)の直線状組織が界面と接する

部分では大きく,酸素が濃化したα一Ti相と接する部分で小

さい,という特徴を有していた.その結果,Fig.10で示し

たように,溶解材Ti(0)/Al拡散対における中間層の成長は

Ti/Al拡散対のそれより773~873 Kの温度範囲で30~50%

程度抑制されていた.このような溶解材Ti(0)/Al拡散対に

おける中間層成長の抑制機構について考察する.

 Fig.12に溶解材Ti(0)/Al拡散対における中間層成長の

抑制機構の模式図を示した.Fig.12(a)には反応拡散の初期

段階を示した.反応拡散の初期には,溶解材Ti(0)中の拡

散対界面に存在していた酸素とAl母材の界面の一部にAl

を主体とする酸化物層を形成するとともに,中間層も生成す

る.溶解材Ti(0)中の帯状に偏析した酸素は中間層の成長

とともに接合界面に移動し酸化物層に酸素を供給する.この

Alを主体とする酸化物層が形成されるのは,酸素供給量の

多い溶解材Ti(o)の酸素偏析部に対応する部分である.こ

の酸化物層は時間とともにFig.12(b)のように中間層とAl

の界面全体に形成されるが,初期の段階ではFeが濃化した

直線状組織に隣接する中間層とA1の界面には拡散を抑制す

る酸化物層が生成されていないため,Ti/A1拡散対の中間層

と同じ程度の層厚に成長することが可能で,Al中に凸部を

形成し,その結果,中間層は波状になるものと考えられる.

4.2.2溶解材Ti(o)/Al拡散対の903 Kにおける中間層の

   成長挙動

 903Kで拡散焼鈍した溶解材Ti(0)/Al拡散対の中間層の

層厚はFig.7(b)で示したように,酸素濃度が高い部分と接

する部分で大きく,直線状組織と接する部分で小さい特徴を

有していた.その結果,Fig.10で示したように,903 Kで

は中間層の成長速度はTi/A1拡散対の場合と比較して促進さ

れていた.これは上述した温度範囲773~873Kの成長と

(a) Ti(0)TiA13 Al

(b) Ti(0)TiA13 A1

Fig.12 Schematic representation of growth mechanism ofTiA13 intermediate phase in as floating-zone-melted Ti-5mo1%O and Al diffusion couple.(a)Early stage of the diffu-

sion reaction,(b)fully advanced stage of the diffusion reac-

tion.

は,逆の挙動であり,903Kでは中間層の成長のための活性

化エネルギーはTi中の酸素の存在により低下したことを示

唆している.な:ぜこのような二つの温度領域で異なった成長

挙動を示すのか明らかではないが,次のような可能性が考え

られる.すなわち,TiA13の結晶構造は873 K近傍より低温

側においては,Ti8A124(α一TiA13)(格子常数:α=0.3875 nm,

o=3.3835nm)で高温側ではTiA13(α=0.3849 nm,6=

0.8610nm)となる同素変態が存在することが報告されてい

る5,15).このことから変態点の上下における結晶構造の変化

が酸素の拡散挙動にも影響を及ぼし,中間層の成長挙動が変

化した可能性が考えられる.しかし,本実験のX線回折に

おいては,Ti8A124の結晶構造は確認できなかった.本実験

で生成された中間層にはSiが固溶していたことが, Ti8A124

相を同定できなかった原因の可能性もある.

4.3焼鈍材Ti(o)/Al拡散対における成長挙動と

  Kifkendall効果

 焼鈍材Ti(0)/Al拡散対に生成する中間層の形状は, Fig.

9(a)に示したようにTi/Al拡散対の場合と同様に,ほぼ一

定の層厚で界面は直線的であった.このことは,溶解材

Ti(0)の試料に存在していた酸素とFeの偏析が焼鈍材

Ti(0)試料では均質化されたため,中間層は一定の層厚で成

長したものと考えられる.

 また,焼鈍材Ti(0)/Al拡散対における中間層の成長速度

は,Fig.10に示すように溶解材Ti(0)/Al拡散対の場合よ

り小さく,Ti/Al拡散対の場合とほぼ同じであった.これ

は,溶解材Ti(0)/Al拡散対における中間層の成長速度は,

Fig.7(b)に示したように,特に酸素濃度が高い部分で大き

くなっていたためである.一方,焼鈍材Ti(0)/Al拡散対に

Page 9: TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の ... - JST

第 2 号 TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の影響 93

おいては酸素分布が均質化しているため,成長速度の大きい

高酸素部が消失し,その速度低下の寄与が大きく作用した結

果,溶解材Ti(0)/A1拡散対の場合よりも中間層成長が遅く

なったと考えられる.このように,反応拡散においては,

Ti中の酸素などの不純物の偏析が中間層の成長速度に大ぎ

く影響することがわかった.

 また,本実験では,Fig.9(a)と(b)に示すように拡散対作

製時に混入したA1203粉末のマーカーの位置はMatano界面

よりA1側に移動していることから,中間相のA1原子の拡

散はTi原子より速いことがわかった.

 Tardyら14)は薄膜のTiとWマーカーとA1の拡散対を用

いてマーカー位置と中間層の厚さを測定し中間層中のTiと

A1の固有拡散係数を評価し,中間層中のA1原子の拡散は

Ti原子より速いことを示しており,本実験結果はこれを支

持している.

4.4各種TiとAlの反応拡散における中間層成長のアレニ

  ウスプロットの比較

10-12

    7/K900  800   700 600

10-13

 10-14㍉

茜 10-15日

ミ10-16

 10-17

10-18

遊一一♂駕k      ◇  van Loo et al.(4)

      ▲ Shimozaki et al.(7)

      ◆  Tardy et al∫14)

10-1 w1.1t21.31.4t51.61.7

       7’1110-3K1

Fig.13 Temperature dependence of square of rate constant,

ん2,for layer growth of TiA13 phase in diffusion couples com-

posed of Ti and A1. Previously reported data are also shown.

 Fig.13に本実験およびこれまでに報告されているTiと

A1の拡散対を用いた中間層の成長速度定数の2乗と温度の

逆数の関係を示した.van LooとRieck4)は純度99.7

mass%Tiと99.99 mass%A1を用い,溶融A1にTi片を浸

すhot dipPing法またはcold pressing法により拡散対を作

製し,温度範囲850~915Kで反応拡散実験を行っている.

その結果,層厚と焼鈍時間は放物線則には従わず焼鈍時間に

ほぼ比例し,その場合の層成長の活性化エネルギーを180

kJ mo1-1と評価している. van LooらはTi表面に存在する

酸化膜がTiとA1の反応に影響を及ぼし層成長が放物線則

に従わず比例関係になると考察している.

 本実験における拡散処理条件はvan Looらとほぼ同じ程

度である.しかし,中間層の成長は潜伏期間を過ぎた後は放

物線則に従っておりvan Looらの結果と異なる.ここで,

van Looらの中間層成長の実験データをもとに,本実験の解

析法と同じ方法で活性化エネルギーを評価すると約227kJ

mo1-1であった.この値は本実験で求めた活性化エネルギー

236kJ mol一1と近い値であった.このことは, van Looら

の実験結果も放物線則で整理できる可能性を示唆している.

 なお,本実験では,A1に含有されているSiが中間相に濃

化するという現象が認められており,Siが中間層成長に影

響を及ぼしている可能性が指摘される.不純物あるいは合金

元素の影響を調べた例としては,Cuを0.25~3 mol%含有

するアルミニウム合金とTiからなる拡散対を用いた研

究12)・14)があるが,これらの研究では,Cu添加したA1を用

いた方が,高純度A1を用いた場合よりも中間層TiA13の成

長が抑制され,中間層成長の活性化エネルギーが大きくなる

という結果が報告されている.このように,不純物元素が反

応拡散挙動に影響を及ぼす場合も報告されているが,本研究

のTi(純度98.7 mass%)とA1(純度99.2 mass%)の反応拡散

で得られた中間層成長の活性化エネルギーは,van Looらの

比較的高純度のTi(純度99.7 mass%)とA1(純度99.99

mass%)を用いた場合の値とそれほど差が認められな:かっ

た.したがって,本研究ではSiなどの不純物の影響はほと

んどなかったものと考えられる.

 また,van Looらは拡散対の界面ではTi表面に存在する

酸化膜が中間層成長に影響を及ぼすと考えたが,本実験では

中間層とA1の界面に酸化物が出来やすく,これが層成長に

著しく影響を及ぼすことが明らかになった.

 Shimozakiら7)は純度99.99 mass%で直径6mmのTi棒

および厚さ5mmの純度99.999 mass%A1板を冷間圧延に

より,それぞれ,0.5mmおよび1mmの厚さに加工し,圧

延ままの薄板を研磨した後,さらに化学研磨を施し,クラン

プ法により拡散対を作製している.その結果,この拡散対に

おける中間層成長の活性化エネルギーを813~923Kにおい

て約34kJ mo1一1と評価した. Shimozakiらはこの非常に小

さな活性化エネルギーは,生成した中間層の結晶粒径がA1

側界面においては1μm程度,Ti側界面ではそれ以下の微

細粒であり,中間層成長における原子拡散が主に粒界拡散に

よるためであったと考察している.

 本実験のTi/A1拡散対に生成された中間層TiA13相の結晶

粒径はShimozakiらの結果と比較して5倍程度の大きさで

あり,中間層成長の活性化エネルギーは格子拡散を示唆する

236kJ mor 1であった.中間相成長の活性化エネルギーが

本実験とShimozakiらとで大きく異なった理由として,上

述した中間層の粒径の差や,高純度のTiとA1を用いたこ

と,あるいは冷問圧延ままの高歪みが蓄積された試料を用い

たことなどが考えられる.

 また,Tardyら14)は, Si基板に酸化膜を成長させた上に,

真空度1×10-5Paの雰囲気で膜厚200 nmのTiと膜厚200

nmのA1を蒸着させた拡散対,あるいはTiとA1の界面に

膜厚1nmのWマーカーを入れた薄膜の拡散対を用いて

623~773Kで拡散実験を行っている.この拡散対のTiと

A1膜のそれぞれの平均結晶粒径は50 nmおよび200 nmで

あった.また,拡散焼鈍後の濃度分布はRutherford back-

scattering(RBS)により決定している.この結果,中間層成

長は放物線則に従い,中間層TiA13成長のための活性化エネ

ルギーを131kJ mor 1と評価している.また,マーカー実

Page 10: TiとAlの反応拡散に及ぼすTi中の酸素の ... - JST

94 日本金属学会誌(2000) 第 64巻

験からTiとA1原子の固有拡散係数を評価した結果,中間

相中の原子拡散は格子拡散によると考察している.

 Tardyらは,中間相中の原子の拡散は格子拡散によると

考えたが,中間層成長の活性化エネルギーは,本研究の約

1/2であった.この相違は次のように考えられる.Tardyら

による薄膜の拡散対の作製は真空中で行っているため拡散対

界面ではクランプ法と異なり酸化被膜の存在が極めて少ない

と考えられる,このためTardyらの中間層成長の時間依存

性には潜伏期がほとんど観察されていない.一方,蒸着法に

より拡散対を作製しているためマトリックスが格子欠陥を多

く含んでいること,および粒径が小さいこと,などによる,

粒界拡散の影響が重畳している可能性が考えられる.

5.結 論

 TiとA1,浮遊帯溶融法により作製したTi-5 mo1%0と

A1,および浮遊帯溶融法により作製後さらに1193 Kにおい

て72ksの間,均質化焼鈍を行ったTi-5 mo1%0とA1から

成る3種類の拡散対を用いて,温度範囲773~903Kで反応

拡散を行い次のような結果を得た.

 (1)Ti/A1,溶解材Ti(0)/A1および焼鈍材Ti(0)/Al拡散

対いずれの反応拡散においても中間層TiA13一相の生成が認

められた.このTiA13相にはA1母材中の不純物Siが濃化

し,Ti:(A1+Si)の割合はほぼ1:3であった.

 (2)Ti/A1拡散対に生成される中間層TiA13相の界面は直

線的で層厚は均一であった.しかし,溶解材Ti(0)/Al拡散

対の焼鈍温度773~873Kにおける中間層の層厚は,溶解材

Ti(0)の酸素が濃化したα一Ti相と接する部分で小さく,層

厚の大小が交互に現れる波状を呈した.この中間層は全体と

してTi/A1拡散対の場合と比較して成長が抑制された.この

ような中間層成長の抑制機構として,中間層とA1母材の界

面にA1酸化物が形成されるというモデルを提案した.

 (3)溶解材Ti(0)/A1拡散対の焼鈍温度go3 Kにおいて生

成されるTiA13相の層厚は,773~873 Kの場合とは逆に,

溶解材Ti(0)の酸素が濃化したα一Ti相と接する部分で大き

くなり,層厚の大小が交互に現れた.この中間層は全体とし

てTi/A1拡散対の場合と比較して成長が促進された.しか

し,go3 Kにおける焼鈍材Ti(0)/A1拡散対の中間層の成長

挙動はTi/A1拡散対の場合とほぼ同じであった.

 (4)TiA13相の層成長(層厚)は拡散時間の1/2乗に比例

し,放物線則に従った.このTiA13相の層成長速度定数の2

乗,ん2がアレニウスの式に従うと仮定して,活性化エネル

ギーと振動数項を求めた結果,Ti/A1拡散対ではそれぞれ

237±15kJ mor 1および3.5 m2 s-1であり,Tiに酸素を添

加した溶解材Ti(0)/A1拡散対では263±7kJ mo1-1および

64m2s-1と評価された.

 (5)溶解材Ti(0)/A1拡散対の反応拡散においては, Ti-5

mo1%0中に存在する酸素やFeおよびA1中のSiやFeなどの不純物元素ならびにそれらの偏析が中間相の成長挙動に

大ぎく影響することがわかった.

 (6)Kirkenda11マーカーがMatano界面のA1側に移動し

ていることから,TiとA1の反応拡散においてはA1原子の

拡散がTi原子より速いことがわかった.

 本実験を遂行するにあたり,実験に協力頂いた岩手大学工

学部材料物性工学科学生の小形安紀氏(現:NEC米沢㈱),

上原朋博氏(現:日立東北ソフトウエア㈱),堤邦彦氏(現:

㈱高周波熱錬)に感謝いたします.また,本稿をまとめるに

当たり,有益な議論をいただいた岩手大学工学部材料物性工

学科助手(現:Stuttgart Univ.)W. Sprenge1博士および岩

手大学工学部材料物性工学科教授越後谷淳一博士並びに講

師山口明博士に深く感謝の意を表します.

文 献

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