ICH Q6Aの課題とその進捗 - JST

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PDA Joumal of GMP and Validation in Japan Vo1.3,No.1(2001) 〃、辮訪OR8吻吻 ICH Q6Aの課題とその進捗 Shigeo KoJIMA 小嶋茂雄 国立医薬品食品衛生研究所薬品部 1.はじめに 平成11年10月のワシントンでのICH会議におい て,化学合成医薬品の規格および試験方法のガイドラ イン(Q6A)が最終合意に達したが,このガイドラ インに含まれる定期的試験/スキップ試験,工程内試 験の利用,パラメトリックリリースなどの医薬品の品 質保証に関する新しい考え方を,わが国においてどの ように実施していくかが課題となっている。本稿は, これらの考え方を巡る最近の動きについて,厚生科学 研究として行われているfeasibilitystudyの進捗状況 を中心に解説する。 表1に,化学合成医薬品分野のガイドラインに関す る平成11年9月15日時点での調和の進捗状況とわが 国における施行期日を示した。 2.規格および試験方法のガイドライン(Q6A) 2.1.Q6Aの特徴 (1) 定期的試験/スキップ試験,工程内試験の利用, パラメトリックリリースなど,わが国の現行の医薬 品承認・許可制度にない新しい考え方を含むこと。 (2) 日米欧三薬局方間での試験法の統一が強く要望 されていること。 〒158-0098 東京都世田谷区上用賀1-18-1 E-mail:kojima@nihs.go.jp 本稿は,日本PDA第8回年会(2000年11月,東京)で発 表した内容に加筆したものです。 (3)規格の試験項目が,Universal Tests(原薬 剤の規格に必ず設定すべき試験項目)とSpecific Tests(原薬や製剤の用途,剤形の特性などに応じ てケースバイケースで設定が必要となる試験項目) に大きく分けられたこと。 (4) 各試験項目をどのような場合に規格に設定すべ きかを理解しやすくするため,8つのフローチャー トが添付されたこと。 2.2. 薬局方試験法の調和の進捗 平成11年10月のワシントンでのICH会議では, 日米欧三薬局方の試験法の調和の問題に集中して検討 が行われた結果,今後もPDG(薬局方検討会議)に おいて試験法の調和に努めること,またICH Task Forceの作られた表2の5つの試験法の判定基準につ いては,ICHの場でQ6AのグループとPDGが協力 して調和の作業を進めることで合意に達した。 平成12年2月の東京でのICH会議では,これまで 調和がとくに困難と考えられていた含量均一性試験 法,重量偏差試験法,溶出試験法ならびに崩壊試験法 の4つの重要な製剤試験法の判定基準が合意に達する という非常に大きな成果が得られた。このような大き な成果が得られた背景には,日本側が調和に向けての 方向性を打ち出す役割を積極的に果たしたことが挙げ られる。 すなわち,含量均一性試験法と質量偏差試験法につ いては,日本側がTask Forceとしての役割を積極 的に果たすことにより,これらの調和が難しいと考え 』Z

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PDA Joumal of GMP and Validation in Japan Vo1.3,No.1(2001)

〃、辮訪OR8吻吻

ICH Q6Aの課題とその進捗

Shigeo KoJIMA

小嶋茂雄国立医薬品食品衛生研究所薬品部

1.はじめに

 平成11年10月のワシントンでのICH会議におい

て,化学合成医薬品の規格および試験方法のガイドラ

イン(Q6A)が最終合意に達したが,このガイドラ

インに含まれる定期的試験/スキップ試験,工程内試

験の利用,パラメトリックリリースなどの医薬品の品

質保証に関する新しい考え方を,わが国においてどの

ように実施していくかが課題となっている。本稿は,

これらの考え方を巡る最近の動きについて,厚生科学

研究として行われているfeasibilitystudyの進捗状況

を中心に解説する。

 表1に,化学合成医薬品分野のガイドラインに関す

る平成11年9月15日時点での調和の進捗状況とわが

国における施行期日を示した。

2.規格および試験方法のガイドライン(Q6A)

2.1.Q6Aの特徴

(1) 定期的試験/スキップ試験,工程内試験の利用,

パラメトリックリリースなど,わが国の現行の医薬

品承認・許可制度にない新しい考え方を含むこと。

(2) 日米欧三薬局方間での試験法の統一が強く要望

されていること。

〒158-0098 東京都世田谷区上用賀1-18-1E-mail:kojima@nihs.go.jp

本稿は,日本PDA第8回年会(2000年11月,東京)で発表した内容に加筆したものです。

(3)規格の試験項目が,Universal Tests(原薬や製

 剤の規格に必ず設定すべき試験項目)とSpecific

 Tests(原薬や製剤の用途,剤形の特性などに応じ

 てケースバイケースで設定が必要となる試験項目)

 に大きく分けられたこと。

(4) 各試験項目をどのような場合に規格に設定すべ

 きかを理解しやすくするため,8つのフローチャー

 トが添付されたこと。

2.2. 薬局方試験法の調和の進捗

 平成11年10月のワシントンでのICH会議では,

日米欧三薬局方の試験法の調和の問題に集中して検討

が行われた結果,今後もPDG(薬局方検討会議)に

おいて試験法の調和に努めること,またICH Task

Forceの作られた表2の5つの試験法の判定基準につ

いては,ICHの場でQ6AのグループとPDGが協力して調和の作業を進めることで合意に達した。

 平成12年2月の東京でのICH会議では,これまで

調和がとくに困難と考えられていた含量均一性試験

法,重量偏差試験法,溶出試験法ならびに崩壊試験法

の4つの重要な製剤試験法の判定基準が合意に達する

という非常に大きな成果が得られた。このような大き

な成果が得られた背景には,日本側が調和に向けての

方向性を打ち出す役割を積極的に果たしたことが挙げ

られる。

 すなわち,含量均一性試験法と質量偏差試験法につ

いては,日本側がTask Forceとしての役割を積極

的に果たすことにより,これらの調和が難しいと考え

』Z

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PDA Joumal of GMP and Validation in Japan

表1化学合成医薬品の品質ガイドラインの調和の進捗状況と施行期日

ガイドライン 進捗状況 わが国での施行期日

安定性試験(Q1)

 安定性試験ガイドライン

  同上の改訂

 光安定性試験ガイドライン

 安定性試験の新剤形への適用

分析法バリデーション(Q2)

 用語とその定義に関するテキスト

 評価方法に関するテキスト

不純物規格(Q3)

 原薬の不純物に関するガイドライン

  同上の改訂

 製剤の不純物に関するガイドライン

  同上の改訂

 残留溶媒に関するガイドライン

規格および試験方法(Q6)

 化学合成医薬品に関するガイドライン

原薬GMP(Q7) 原薬GMPガイドラインコモンテクニカルドキュメント/品質(M4・Q)

 Table of Contents

 Summary

ステップ5ステップ4ステップ5  〃

ステップ5  〃

ステップ5ステップ3ステップ5ステップ3ステップ5

ステップ4

ステップ4

ステップ4ステップ4

平成9年4月1日 〔最終合意〕

平成10年4月1日    〃

平成10年4月1日    ノノ

 平成9年4月1日〔最終合意文書の策定へ〕

 平成11年4月1日〔最終合意文書の策定へ〕

 平成12年4月1日

〔通知に向けて準備中〕

〔最終合意〕

〔最終合意〕

〔 〃 〕

ステップ1:調和案の策定,ステップ2.調和案の完成(基本的合意),ステップ3:調和案の3極での内示と最終合意文書の策定

ステップ4:最終合意文書の完成,ステップ5:最終合意文書の3極での取り込みと実施

表2 薬局方試験法の調和の進捗状況(平成12年11月15日現在)

試験法 ICH Task Force 担当薬局方 Stage

含量均一性試験法

質量偏差試験法

溶出試験法

崩壊試験法

微生物限度試験法

不溶性微粒子試験法

注射剤の排出可能容量試験法

着色度および澄明度試験法

無菌試験法

エンドトキシン試験法

強熱残分試験法

日本

日本

EUEU米国

USPUSPUSPUSPEPEPEPEPEPJPJP

44444663466

注)ICH Task Forceは判定基準の調和を,担当薬局方は試験法の調和をそれぞれ担当する。Stage6サインオフの終わったもの

られていた試験法の調和をまとめ上げたものであり,

また,溶出試験法についても日本側からUSPのQ値

を判定基準に用いることを提案することによってEU

側も歩み寄らざるを得なくなり,調和が達成されたも

のである。

 また,微生物限度試験法については,ICH Task

Forceが作られた5つの試験法の中で最も調和作業が

遅れていたが,平成12年7月のブリュッセルでの

ICH会議において,米国のTask Forceが作成した

調和案を基に検討が行われ,非無菌性製剤の微生物限

度値などに関して合意に達した。

 ICHの場で判定基準の調和を終わったこれら5つ

の試験法については,現在,PDGにおける担当薬局

方の手で,ICHでの合意を踏まえた統一試験法の案

が作成されているところであり,各薬局方の試験法が

interchangeableなものとなる日は近いと思われる。

 このようにICH Task Forceによる薬局方試験法

の調和が非常な成功を収めたζとは,PDGによる薬

局方の調和作業全体に非常によい影響を与える結果と

なり,従来ICHとの協力に必ずしも積極的とは言え

2

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Vo1.3,No.1(2001)

なかったPDG側も,ICHと協力して積極的に調和の

作業を進める姿勢を示すようになるなど,薬局方試験

法の調和の展望はかなり開けてきたように思われる。

2.3.Q6Aに含まれる新しい考え方

 本ガイドラインの一般的概念(General Concepts)

の章に含まれる項目を次に示す。

1)定期的試験/スキップ試験

2)出荷のための判定基準と有効期間を考慮した

  判定基準

3)工程内試験

4)設計時および開発段階のデータの考慮

5)承認申請時に得られているデータには限りが

  あること

6)パラメトリックリリース

7)代替法

8)薬局方の一般試験法とその判定基準

9)技術の進展

10)製剤の規格に対する原薬の影響

11)標準品

従来,わが国では規格にある項目についてはすべて

出荷時に試験する必要があるとしてきているが,上記

の項目のうちの1),3),6)の3つは,医薬品の製造

工程を厳しくコントロールすることが品質保証の上で

重要であり,これを活用することによって,最終製品

での試験を軽減し得るとする新しい考え方であるた

め,Q6Aをわが国に取り込むにあたっては,これら

の新しい考え方が実施可能な体制を整備しておく必要

がある。

 Q6Aにおけるこれらの考え方に関する記載の訳文

を次に示す。

行政当局にその妥当性を示す必要がある。この概念

は,例えば経口固形製剤における残留溶媒の試験およ

び微生物学的試験に適用できるであろう。承認申請時

には限られたデータだけしか得られていないこともあ

るので,この概念は,通常,承認後に適用されるもの

である。試験を行った場合に,定期的試験を行うにあ

たって設定された判定基準に適合しないようなことが

あれば,どのような不適合であってもそれを適切な形

で行政当局に報告する必要がある。これらのデータか

ら,ルーチン試験に戻すことが必要と判断される場合

には,ロット毎の出荷試験を再開すべきである。

(2)工程内試験(ln・process tests)

工程内試験は,本ガイドラインに示されたように,

出荷の際に行われる一連の正式な試験の一部としてで

はなく,原薬や製剤の製造工程において実施される試

験のことである。

 製造工程の作動状態の指標となるパラメータ群を適

切な範囲内に収めることを目的としてのみ行われる工

程内試験,例えばコーティングを施される前の素錠の

段階での硬度や摩損度の試験ならびに個々の錠剤の重

量の試験は規格に含めない。

 ある試験項目について出荷の際に要求されるのと同

等のあるいはそれより厳しい判定基準のもとで製造工

程中に行われるある種の試験(例えば溶液のpHの試

験)のデータは,その試験項目が規格に含まれている

場合には,出荷の際に規格要件を満たしているかどう

かを判定するのに用いてもよいであろう。しかしなが

ら,このアプローチを採用するには試験結果や製剤の

機能特性が工程内の段階から最終製品に至るまで変化

しないことを示すバリデーションデータが必要である。

(1)定期的試験/スキップ試験(Periodic/skiptesting)

 定期的試験やスキップ試験は,試験されなかったロ

ットであっても,その製品について設定されたすべて

(3) パラメトリックリリース(Parametric release)

 製剤については,行政当局により承認された場合に

は,出荷試験を型にはまった形で行う代わりにパラメ

の判定基準に適合していなければならないことをよく トリックリリースを行ってもよい。最終段階で滅菌を

理解したうえで,出荷時の特定の試験をロット毎では  行う製剤の無菌試験がその1つの例である。この場

なく,あらかじめ定められたロット数毎にあるいはあ

らかじめ定められた期間毎に行うことである。この概

念を適用した場合には,すべてのロットについて試験

する場合よりも試験する数が少なくて済むが,事前に

合,各ロットの出荷は製剤製造の最終滅菌段階での特

定のパラメータ,例えば温度,圧力および時問が満足

しうる値を示していることを確認・したうえで行う。こ

れらのパラメータは,一般に正確に測定し管理するこ

3

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とができるので,製品の無菌性を保証するうえでは,

限られた数の最終製品について無菌試験を行うよりも

これらのパラメータを用いたパラメトリックリリース

の方が信頼性が高い。パラメトリックリリースによる

出荷のプログラムには,適切な試験(例えば化学的あ

るいは物理的指標を用いるもの)が含まれることもあ

ろう。パラメトリックリリースの採用を申請するに

は,製品の滅菌工程が適切にバリデートされているこ

とが前提となること,ならびに定められた期間毎に再

バリデーションを行って,バリデートされた状態が維

持されていることを示す必要があることに留意しなけ

ればならない。パラメトリックリリースが実施される

場合にも,それによって間接的に管理されている属性

(例えば無菌性)については,その試験方法とともに規

格に設定されている必要がある。

3. スキップ試験/定期的試験,工程内試験の利用,  パラメトリックリリースなどの考え方の実施に関  する国内での検討の進捗状況について

 本ガイドラインが最終合意に達したことにより,ガ

イドラインの国内公布後,一定の猶予期問をおいて,

本ガイドラインに含まれる定期的試験/スキップ試験,

工程内試験の利用,パラメトリックリリースなどの考

え方についても実施に移されることになる。

 本ガイドラインをわが国に取り込むにあたっては,

これらの新しい考え方が実施可能な体制を整備してお

く必要があり,(1)法的根拠の整備が行われるととも

に,(2)わが国におけるfeasibilityの検討が厚生科学

研究(医薬安全総合研究事業)として進められつつある。

(1)法的根拠の整備:日本薬局方の通則4項および

   製剤通則6項の改正

 第十三改正日本薬局方第二追補(平成11年12月公

布)において,日本薬局方収載の医薬品の適合基準を

定めた通則4項が改正されて,これらの考え方を許容

する規定が盛り込まれて,これらの考え方を採用しう

る法的根拠を与えられた。

 また,通則4項の改正のみでは無菌製剤にパラメト

リックリリースを適用してもよいとするための法的根

拠が明確でないとの声があったことから,第十三改正

日本薬局方第二追補において,参考情報に「最終滅菌

4

PDA Joumal of GMP and Validation in Japan

医薬品の無菌性保証」が収載されて,医薬品における

パラメトリックリリースの概念が明確にされるととも

に,現在,製剤通則(6)項として,パラメトリック

リリースを許容する規定を設ける方向で検討が進めら

れており,第十四改正日本薬局方に盛り込まれる予定

となっている。

 第十三改正日本薬局方第二追補で改正された通則4

項,ならびに日本薬局方フォーラムの9巻4号に掲載

予定の製剤通則(6)項の案を次に示す:

         通  則

4 日本薬局方の医薬品の適否は,その医薬品各

条の規定,通則,生薬総則,製剤総則及び一般試

験法の規定によって判定する。ただし,性状の項

のにおい(ただし,生薬を除く),味(ただし,

生薬を除く),結晶形,溶解性,液性,安定性,

吸光度,凝固点,屈折率,脂肪酸の凝固点,旋光

度,粘度,比重,沸点及び融点,並びに医薬品各

条中の製剤に関する貯法の保存条件は参考に供し

たもので,適否の判定基準を示すものではない。

 また,製造工程のバリデーション又は品質管理

の試験検査に関する記録により品質が日本薬局方

に適合することが保証される場合には,出荷時の

検査等において,必要に応じて各条の規格の一部

について試験を省略できる。

(下線部を追加)

製剤通則(改正案)

(6)製造工程のバリデーションおよび適切な工

程管理とその記録の査証により,高度な水準での

無菌性が恒常的に保証される場合には,出荷時の

試験において無菌試験を省略することができる。

(2)定期的試験/スキップ試験,工程内試験の利用,

パラメトリックリリースなどの考え方のわが国

での実施に関するfeasibility study

 これらの考え方を「どのような場合に適用できる’

か,申請する際にはどのようなデータが必要か,申請

を検討し承認する体制はどうするのか」などの点に関

するfeasibilitystudyを厚生科学研究〔医薬安全総合

研究事業「医薬品の品質保証基準及び品質判定システ

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VoL3,No.1(2001)

ムに関する研究」(主任研究者:青柳伸男国立医薬品

食品衛生研究所薬品部第1室長)〕として,行政側と

企業側が協力して行っている。

 本研究は,平成10年度からの3年計画で行われる

ことになっており,次のような計画で検討が進められ

ている。

 平成10年度 定期的試験/スキップ試験に関する

       feasibility study

 平成11年度 工程内試験の利用に関するfeasibi1-

       ity study

 平成12年度 パラメトリックリリースに関する

       feasibility study

4. 平成10年度の定期的試験/スキップ試験に関する  研究報告書について

4.1.報告書の要点

(1)GMPが良好に施行されていることが前提であ

  ること。

(2) 当面,製剤から適用するのが適当と考えられる

  こと。

(3) 日本の場合,承認申請の段階では,実生産スケ

  ールで製造されたもののデータがないので,承認

  後の実生産のもので決まって適合するようなデー

タの得られる試験項目についてスキップ試験への

  移行が可能であること。

 回顧的バリデーションにより,過去のロットの試験

データを統計的に解析し,品質が安定していることを

確認したうえで,スキップ試験に移行する。

(4)決まって適合すると判断するには,20ロット程

度の連続したロットのデータが問題なく規格値を

クリヤーしていることが必要と思われる(量的試

  験のスキップ試験への移行は,管理図に基づいて

  行うのが望ましい)。

(5) スキツプ試験への移行の可否は,製造工場毎に

  GMPの施行状況を見て判断すべきものであるの

  で,GMPの査察を担当している地方庁が判断す

  るのが適当であり,地方庁に届け出て問題を指摘

されなければOKとする形が適切と思われるこ

  並

 スキップ試験はある試験項目を,連続した何ロット

かについて,単にその実施を省略するだけにすぎず,

規格の内容自体に変更があるわけではないので,一部

変更としてではなく,運用上の問題として対処するの

が現実的と考えられる。

4.2.スキップ試験が可能な試験項目

 医薬品の有効性,安全性および品質の評価に影響を

与えることが少ない試験項目について,原料の受入試

験成績,製造工程の管理,回顧的バリデーションのデ

ータ等の合理的な根拠のもとに,スキップ試験の対象

とすべきであると考えられる。したがって,有効成分

含量の試験や類縁物質の試験など,医薬品の有効性,

安全性および品質の確保に重要な試験へのスキップ試

験の適用は,少なくとも現在の段階では難しいと思わ

れる。また,含量均一性試験および溶出試験などにつ

いても,単純にスキップするのではなく,それぞれ質

量偏差試験および崩壊試験を代替試験として設定し,

スキップする間はこれらの試験を行うことが要求され

ることになるものと思われる。無菌試験については,

スキップしている問の無菌性の保証という点で,スキ

ップ試験の適用は難しいと考えられるため,パラメト

リックリリースを適用すべきものと思われる。

 製薬企業へのアンケートで適用の希望の多かった

  項目

 固形製剤: 1)確認試験,2)微生物限度試験,3)

       残留溶媒の試験,4)含量均一性試

       験*,5)溶出試験*

 内用液剤: 1)確認試験,2)残留溶媒の試験,3)

       保存効力試験,4)微生物限度試験,

       5)保存剤の定量

 無菌製剤: 1)確認試験,2)残留溶媒の試験,3)

      保存効力試験,4)モル浸透圧の試験,

       5)無菌試験**

4.3. スキップ試験の採用に関する統計学的考察

(1) 質的試験の場合

 n回連続して適合となる製品の真の不良ロット率は

二項分布を用いて推定することができるが,消費者危

険を5%,すなわち,n回適合が続く確率を0.05と

*代替試験として,それぞれ質量偏差試験,崩壊試験の設定 が必要とされる場合が多いと思われる。**パラメトリックリリースの適用が考えられる。

5

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PDA Joumal of GMP and Validation in Japan

し,不良ロット率1%以下をスキップ試験への移行条

件とすると,少なくとも300回続けて合格しなければ

ならないことになる。

 このように,確認試験のような質的試験の場合,統

計的根拠にのみ基づいてスキップ試験へ移行するのは

容易でないことが判明した。→関連項目の試験や

GMPによる品質保証手段を活用して判断すべきもの

と思われる。

確認試験へのスキツプ試験の活用

 106 104ハぷ 102】ゴ 100

5 98り

8 960  g4

  92  90  88

UCL

LCL

 確認試験については,

1) 当該成分の定量法に,標準品を用いたクロマトグ

 ラフ法(HPLC法など)のように,特異性のある

 定量法が用いられていること。

2) 原料の受入れ試験において,確認試験が行われて

 いること。

3) この原料の使用が製造記録によって確認できるこ

 と。

といった条件が満たされている場合には,スキップ試

験の適用が可能であると考えられる。

(2)量的試験の場合

 ①スキップ試験へ移行するには,統計的に十分な数

のロットから総平均とロット問の標準偏差を求め,3

σ法により設定された管理限界よりスキップ試験の適

否を判断することができる(図1)。’工程の管理限界

が規格の十分内側にあるならば,スキップ試験を適用

できよう。一般に,工程能力指数が1.33以上の場合

に規格に対し工程能力は十分と考えられているので,

それを目安にすべきであろう。

②管理図上で平均値が増加または減少の傾向をとっ

ているときは,工程は安定しているとは言えず,スキ

ップ試験への移行は増減傾向がなくなるまで保留すべ

きである。

③管理図の作成には,信頼の高いσの値を用いる

10%

8%

ハぷ) 6%ロ

筐く0 4%

2%

1  2  3  4  5  6  7    Number of Lot tested

図1Contro1Chartwith3σ

0%

 0 10 202530 40 50 60        主薬含量(mg)

図2核錠と糖衣錠の混合RSDと主薬含量

   1   1   1   1   1■          1。核錠

・糖衣錠   1■          I

   l   I   I   暫霧           l

   l   l   I   I        猶艦     d

§・ 一    ■   : o   I綴           1

響81賃   .   騨   齢

5.平成11年度の工程内試験の利用に関する研究報  告書について

5.1.

1)

2)

3)

必要があるが,推定されるσの信頼区間は20ロット

以上試験したときにほぼ一定の値に近づくので,その

 報告書の要点

GMPが良好に施行されていることが前提である

こと。

当面,製剤から適用するのが適当と考えられるこ

と。

出荷の可否の判定に工程内試験の結果を利用でき

るのは,最終製品になるまで品質特性が変化せ

ず,工程内試験が十分な信頼性を有している試験

程度のロット数は必要であろう。

④スキップ試験に移行した後,試験結果が管理限界

に接近する場合,全ロットの試験に戻す必要がある。  4)

目安としては,管理限界が3σのときは2.0~2.5σ

が適当と思われる。

項目である。利用する際には妥当性を示す資料を

提示し,製品標準書等にその旨明記する必要があ

る。利用開始後も,適宜その妥当性を確認する必

要がある。

工程内試験は,これまでのGMPにおける扱いと

同様,品質管理部門の者より実施される必要があ

5)

る。

工程内試験の利用は,新薬のみならず既存薬にお

6

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VoL3,No.1(2001)

  いても可能である。

6)工程内試験の利用自体は何も目新しいことではな

  く,わが国では既に包装直前の錠剤や穎粒の試験

結果を最終製品の品質保証に利用することが認め

  られている。

7) 中間段階の製品の試験結果の利用に関しては,一

  例として糖衣錠で含量均一性試験が規格項目とな

5.2.糖衣錠の含量均一性試験への素錠の段階での工   程内試験(質量偏差試験)の利用について

っている場合に,素錠段階で質量偏差試験を行う

8)

9)

ことが挙げられる。

工程内試験の利用の法的根拠は,日本薬局方通則

4項(前述)ならびに31項により確立されている。

行政的にはGMPの中で運用可能と考えられる。

 糖衣錠の含量均一性試験に,コーティング前の素錠

の段階での工程内試験(質量偏差試験)が利用可能かど

うか市販の糖衣錠を対象に検討した。

 その結果,素錠の混合のばらつきは大部分の製剤で

十分に小さく(図2),工程内試験として行った質量

偏差試験の結果を最終製品の含量均一性試験の代わり

に利用できることがわかった。また,混合のばらつき

が大きい場合でも,質量偏差試験の判定基準を適切に

厳しく設定すれば,消費者危険を増大させることな

く,工程内試験として行った質量偏差試験の結果を最

終製品の適否の判定に利用できることが判明し,統計

的に妥当な判定基準を構築することができた。

Feasibility StuOy on the lssues Posed by lCH Q6A GuiOeline

Shigeo KOJIMA

National Institute of Health Sciences

 ICH Guideline“Sp㏄ification:Test Procedures and Acceptance Criteria fbr New Drug Substances and New

Dmg Products:chemical substances”(Q6A Guideline)reached consensus among uSA,Eu and Japan onNovember1999.The obj㏄tive ofQ6A Guideline is to assist,to the extent possible,in the establishment ofa single

set of global sp㏄ifications fbr new drug substances and new drug products.The most important色atures ofthis

guideline are1)new general concepts such as periodic/skip testing,in-process tests and parametric release,which

have not been adopted in current dmg approva1-1icensing system in Japan,are included,and2)harmonization

of test procedures among USP,EP and JP is strongly required.In order to support the implementation of this

guideline in Japan,角asibility studies on the above three general concepts posed by Q6A guideline are now carrying

out.In this spe㏄h,I would like to discuss the requirements fbr applying them in Japan based on the艶asibility

study reports of periodic/skip testing (1998) and in-process tests (1999).1’11also discuss the current status of

pharmacopoeial harmonization on test procedures。KeyworJs:IcH Q6A guideline,sp㏄ification,general concepts,

periodic/skip testing,in-process tests,parametric release,色asibility study,pharmacopoeial harmonization

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