米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日...

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米中貿易摩擦が日本企業に与える影響 -- 電気機器産業と自動車産業に注目して-- 伊 能 美 里 加 藤 杏 奈 暁 帆 <要約> 近年,米中貿易摩擦による両国間の対立が深刻化している。4度の追加関税措置・対抗関税措置や度重なる制裁によ り,両国と取引のある電気機器産業や自動車産業に携わる日本企業にも大きな影響が及んでいる。 本論文では,米中貿易摩擦によって日本の電気機器企業と自動車企業が受ける影響を調べるため,イベントスタディ と重回帰分析の手法を用いて,両産業の企業の株価にどのような変化がもたらされ,またどの要因から影響を受けたか の分析を行った。特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベントデイと設定して分析を行ったところ, 電気機器の株価は,企業の中国売上高比率が高いほど,マイナスの影響を受けることが判明した。これは主に,中国の対 米輸出の減少によって引き起こされると考えられる。一方で自動車企業の分析においては,自動車本体を生産してい る業種の株価は,プラスの影響を受けていることがわかった。これは,中国市場において米国製自動車の関税が高くな ることの代替効果として,日本企業の自動車が売れるという影響を投資家が推測したことで生じた変化だと考えられ る。また,中国から安価な自動車部品を輸入しているアメリカの自動車メーカーもコストが高くなり結果的に米国製 自動車の製造コストが高くなることが考えられる。米中日間でのサプライチェーン(供給網)が構築されている今, 米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそうだ。 <キーワード> 米中貿易摩擦,対中関税第3弾,イベントスタディ,電気機器,自動車,サプライチェーン,累積異常収益リターン(CA R),アナウンスメント効果

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米中貿易摩擦が日本企業に与える影響

-- 電気機器産業と自動車産業に注目して--

伊 能 美 里

加 藤 杏 奈

洪 暁 帆

<要約>

近年米中貿易摩擦による両国間の対立が深刻化している4度の追加関税措置対抗関税措置や度重なる制裁によ

り両国と取引のある電気機器産業や自動車産業に携わる日本企業にも大きな影響が及んでいる

本論文では米中貿易摩擦によって日本の電気機器企業と自動車企業が受ける影響を調べるためイベントスタディ

と重回帰分析の手法を用いて両産業の企業の株価にどのような変化がもたらされまたどの要因から影響を受けたか

の分析を行った特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベントデイと設定して分析を行ったところ

電気機器の株価は企業の中国売上高比率が高いほどマイナスの影響を受けることが判明したこれは主に中国の対

米輸出の減少によって引き起こされると考えられる一方で自動車企業の分析においては自動車本体を生産してい

る業種の株価はプラスの影響を受けていることがわかったこれは中国市場において米国製自動車の関税が高くな

ることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという影響を投資家が推測したことで生じた変化だと考えられ

るまた中国から安価な自動車部品を輸入しているアメリカの自動車メーカーもコストが高くなり結果的に米国製

自動車の製造コストが高くなることが考えられる米中日間でのサプライチェーン(供給網)が構築されている今

米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそうだ

<キーワード>

米中貿易摩擦対中関税第3弾イベントスタディ電気機器自動車サプライチェーン累積異常収益リターン(CA

R)アナウンスメント効果

1はじめに

(1)米中貿易摩擦の概要

2017年1月にドナルドトランプ氏がアメリカ合衆国大統領に就任したことは記憶に新しい同氏は同年8月に通商法

第301条に基づき通商代表部に中国の政策がアメリカにとって不合理であるかどうか調査を依頼したその後通商代

表部は2018年3月22日に中国の不合理な法律政策慣行行動がアメリカの知的財産権イノベーション技術開発に危害

を加えていると公表したこれらの課題を解消するために両国間で同年5月から6月の間に計三回の貿易協議が実施さ

れたが合意には至らなかった結果として1980年代から続く対中国貿易赤字のさらなる拡大や技術移転強要知的財

産権侵害を問題視したアメリカ政府は2018年7月から段階的に中国からの一部の輸入品に対し追加関税を課したほかWT

Oへの提訴中国大手通信機器会社のファーウェイとの取引を制限するなどの規制を行った一方の中国政府も即刻対

抗措置という形式でアメリカからの一部の輸入品に関税を課しWTOへの提訴も実施した第1弾第2弾では両国とも影響

の小さいものを選んで対象とし第2弾までは両国の対象金額は同額であったがアメリカの中国製品の輸入額に対して

中国のアメリカ製品の輸入額が圧倒的に小さいため第三弾では中国はアメリカからの輸入品全額に課すことになって

いるこれに対しアメリカは対中輸入の約半分に追加関税を第三弾までに発動している2020年10月現在アメリカの

追加関税措置とそれに伴う中国の対抗関税措置は計四回行われていて両国間の溝は深まるばかりである

1)第1弾

アメリカ政府は通商法301条に基づき2018年7月6日に第1弾として産業機械や電子部品等の340億ドル相当の輸入品に関

税を賦課することを発表実行した同時に中国政府も第1弾の対抗措置として大豆等の農産物等の340億ドル相当のア

メリカからの輸入品に関税を課した

2)第2弾

米通商代表部は2018年8月7日中国の知的財産侵害に対する制裁関税の第2弾を23日に発動すると発表した8月23日に

は第2弾として半導体関連や電子部品プラスチック製品ゴム製品鉄道車両通信部品産業機器などの160億ドル相当

の輸入品に25の追加関税が課され中国政府もその対抗措置として化学工業製品医療設備等の160億円相当のアメリカ

からの輸入品に25の追加関税を課した

表1<アメリカが中国にかけた制裁関税>

発表日 実行日 対象品目 規模

(ドル)

報復関税

(中国rarrアメリカ)

報復関税の

規模

(ドル)

第1弾 201876 201876 産業機械

電子部品

340億 大豆牛肉 340億

第2弾 201887 2018823 半導体化学

製品

160億 石炭化学製品 160億

第3弾 2018918 2018924 家電食料

品自動車部

2000億 液化天然ガス

食料品自動車

600億

第4弾 201981 201991 衣料品テレ

1120億 農産物原油 計750億

20191215 携帯電話パ

ソコン

1600億 木材自動車

3)第3弾

アメリカ政府は2018年9月18日に中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)に対して第3弾の制裁関税を課すことを発表

したアメリカは中国に対する追加関税の対象を食料品や家電自動車部品等にまで拡大し2000億ドル相当の輸入品に

対し10の追加関税を9月24日に発動した第1弾からの追加関税を含めると中国からの輸入の約半分に関税をかける形

となり経済や企業のサプライチェーンへの影響が広がった同日に中国政府も対抗措置として液化天然ガス飲食料

品自動車等の600億ドル相当のアメリカからの輸入品に対して5~10の追加関税を賦課した

4)第4弾

2019年6月末に開催されたG20サミットでの米中首脳会談とそこでの米中通商協議継続の確認により両国間での貿易

をめぐる緊張は一時緩和しアメリカ政府も当面の間の第4弾追加関税不実施を明言したしかし同年7月末での米中閣

僚級協議で議論の進展が見られなかったためアメリカ政府は同年9月1日より中国からの衣類テレビ等の1200億ドル相

当の輸入品に15の追加関税を課し中国政府はアメリカからの石油や農産物等の750億ドル相当の輸入品に5もしくは1

0の関税を課したただ意見公募や聴取の結果を踏まえ携帯電話やノートパソコン玩具等の対象項目1600億ドル相当

への追加関税措置の実施を同年12月15日まで延期しているまた中国政府もこれを受け自動車及び同部品への追加関

税賦課を同日に実施することとした

これらの4弾の関税措置のうちアメリカ政府による第3弾制裁関税の発表日をイベントデイとして採用し分析するこ

ととしたその理由にはこれまでの追加関税措置を比較した中で対象品の総額において第3弾の2000億ドルが最も規模

が大きいことが挙げられる第1弾から第3弾まで合計すると計2500億ドル分の中国からの輸入品に関税がかかることと

なりアメリカの中国からの年間輸出額約5000億ドルであることを鑑みてもその大きさが伺えるこのことからアメリ

カや中国だけでなく両国を跨るサプライチェーンに組み込まれている日本企業への影響も多大であると考えたことも

挙げられる

(2)日本企業への影響

米中貿易摩擦の拡大によりアメリカ中国企業だけでなく日本企業にもその影響は大きく及んでいる2019年9月か

ら12月にかけて実施された日本貿易振興機構(JETRO)の日本企業へのヒアリング調査によると「米中貿易摩擦による業

績への影響あり」と答えた企業のうち「追加関税措置による直接的なマイナスの影響」が見込まれるのはその大多数

が「アメリカによる対中制裁関税適用となった中国産製品」を取り扱う企業であったと明らかにされたそして業績

悪化を改善するためにやむなく製品の値上げを行う企業もありこれが価格競争力の低下や顧客減少を招く可能性もあ

またアメリカの追加関税負担から逃れるため中国での生産を第3国地域に移管する動きも加速している主な日

本企業の移管先にはベトナムやタイ等の東南アジア諸国や日本本国対米輸出上での優位さからメキシコ等が挙げら

れている実際にアメリカによる中国への追加関税第4弾を受けリコーは2019年5月にアメリカ向け主要複合機の生産

を中国からタイに移管することをニュースリリースで発表し京セラも同様の製品の生産を中国からベトナムに移管す

る考えを示しているまた同年6月にはシャープもアメリカ向けのノートパソコン生産拠点を一部ベトナムに移管し

関税負担を減らして早期に代替の生産拠点を獲得することでアメリカ市場での価格競争力を高めようとした日本企業

に影響を与えた他のイベントとしては2019年5月15日にアメリカ商務省が中国の通信機器大手ファーウェイに対し事実

上の禁輸措置を発動したことが挙げられるこの輸出規制は外国企業がアメリカ製品を同社に輸出する場合にも罰則

が適用されるためファーウェイと取引を行う日本企業にも大きな影響が生じた実際に同年5月23日の東京株式市場

では輸出禁止措置の発表前である15日終値に比べて村田製作所の株価は667円(130)TDKの株価は1630円(180)値下が

りしており電子部品産業に従事する企業に打撃を与えたと言えるさらに2019年10月23日の日本政府の調査では日本

の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占め

ることが判明しているこれらの影響は財務省の2019年度上半期(4~9月)の貿易統計にも如実に表れておりアメリカ

の追加関税中国の報復関税第1弾が発表された2018年度上半期と比較しても全体の輸出額は53減(中国向けは91

減)特に「半導体等製造装置」では162減「自動車部品」では115減という結果だったこの衝撃は個々の企業の業

績だけではなく2018年以降日本の貿易赤字が続いていることから国内経済全体へも及んでいることが見て取れる

2先行研究

米中貿易摩擦が日本の多国籍企業(以下 MNCs)に与えた影響を考察した論文に SUN Chang TAO Zhigang YUAN Hongjie Z

HANG Hongyong(2019)があるZHANG et al(2019)は MNCsが特に中国の関連会社が北米との貿易に大きく依存している場合

中国での事業に悪影響が及ぶことそしてこれはさらにMNCsの株価の低下につながることを言及している また中国の

関連会社がMNCsのバリューチェーンにさらに統合されればその影響はさらに大きくなるというしたがって貿易摩擦

の影響は直接関与している2カ国を超えているため 世界経済への影響を理解するには各国間の貿易と多国籍生産の

つながりを考慮に入れる必要があることを示唆している

ZHANG etal(2019)の論文では中国かつ北米と貿易を行っている上場日本企業のグループとそれを行っていない上場

日本企業の2つのグループに分けイベントスタディを行っている具体的には米大統領トランプ氏が中国製品に関税

をかけることを発表した日をイベントデイと設定し被説明変数に個々の企業のCRR(累積リターン)とCAR(累積異常リタ

ーン)説明変数にその企業の中国販売シェアを入れて回帰分析を行っているその際CCRCARではイベント前後各1日

を含めた3日間をウィンドウとしているCRRを用いて2018年3月22日頃をウィンドウとした分析では中国と北米の双方

と取引がある日本企業の上場企業の株式市場リターンが双方と取引のない上場企業よりも0404低くなっており前者

は後者と比べて市場評価が低いと言えるつまり中国北米と貿易を行う日本のMNCは米中貿易摩擦によって被害を受

けていることが示唆されているまたCARを被説明変数とした場合 中国北米と貿易を行う場企業の株式リターンは

そうでない上場企業と比較すると0217低いことも判明したさらに中国に拠点を置く関連企業が米中貿易摩擦によ

り衝撃を受けると日本の親会社から輸入を控えるようになるため親会社の利益低下や株価下落を招くとしたこのこ

とから中国北米への貿易依存が株式市場のパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると結論付けている

次に米中貿易摩擦によるアジア経済への影響について分析した江(2020)を紹介する相互に制裁関税を発動した米中

は中国の対アメリカ輸出とアメリカの対中輸出に打撃を与えるだけなく両国に部材を供給するアジア諸国など第三

国の生産輸出までも巻き込んでいる2018年の日本の貿易統計によると日中貿易の構造は中国が基幹部品素材

や製造用機器などの生産財を日本から輸入しそれを加工した完成品や労働集約型の製品といった消費財を日本に輸出

する相互補完的な関係が依然として続いているこれにより米中貿易摩擦の影響で日本経済も対GDP比が-12とな

り特に電気機器産業と自動車産業またその他製造業にマイナスの影響が出るとした

他にも UNCTAD(国連貿易開発会議)による論文(2019)は アメリカによる対中関税措置が中国に及ぼす影響を調査して

いる対中関税が関税製品の輸入を25以上削減したこと更にはアメリカへの中国の輸出減少はとりわけ台湾メキシ

コEUベトナムに有利な貿易転換効果をもたらしたという全体として中国に対するアメリカの関税が両国に経済的

な損失を与えていることを示しておりアメリカの損失は主に消費者価格の上昇に中国側では重大な輸出損失に繋がっ

ていると結論付けた

最後に本論文においてイベントスタディを行う上で参照した松尾浩之山本健(2006)を紹介する本研究ではイベ

ントスタディの手法によって日本の上場企業間で行われたMampAについて発表された前後における株価すなわち株主価

値の変化を分析している具体的にはシングルファクターモデルを用いて算出した累積異常リターンをグラフで表

すことでMampAの発表が企業の株価に与えた影響を分析したイベントスタディの方法に関しては後述する

3研究に際して-本研究の新規性-

既に述べたように米中貿易摩擦に関する先行研究は多く存在するがそれが日本企業に対して及ぼす影響を産業別に

分析した論文は少ない実際に前述のZHANG et al(2019)は北米貿易依存度が高いもしくは北米と貿易を行う中国現地

法人を有する上場企業はそうでない上場企業と比べて株価への影響が大きいことさらに在中現地法人が日本から多く

調達を受けているほど親会社の株価にも影響があることを示しているが産業別の影響は考慮されていないまた江(2

020)は米中貿易摩擦が特定の産業に従事する日本企業にマイナスの影響を与えると示したが詳細なデータに基づいた

実証には至っていない前述のように日本政府の調査によると日本の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿

易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占めることが判明していてまた半導体等製造装置でも2

018年度上半期と比較して162減と大きな影響を受けているそこで本研究ではイベントスタディと重回帰分析の手

法を用いて新聞記事や先行研究から特に影響が大きいと言及された電気機器産業と日本の主要産業である自動車産業に

従事する企業に着目した関税措置を発動すると発表したイベントが両産業の株価にどのような影響を及ぼしそれの

要因は何であるのかを明らかにする実証分析を行った

4サンプルおよび検証手法

(1) サンプル

企業の株価(権利落ち調整済み株価終値)やTOPIX(東証株価指数)期末従業員数に関するデータについては慶應義塾大

学データベース所収の日経NEEDSからサンプルを得た対象期間は2018年7月20日から2018年9月20日であるまた企業番

号については株式の上場番号を用いたサンプルの対象企業は「1-2 日本企業への影響」で既に述べたように米中貿

易摩擦による影響が大きいと考えられる東証第1部上場の電気機器産業に携わる162社自動車産業に携わる52社とした

産業の分類は前述の日経NEEDSに準拠している東京証券取引所第1部上場企業の株価をサンプルに用いた理由には市

場第1部には国内外を代表する企業が上場しているほか海外投資家が中心となって売買を行う国際的な市場であるこ

とそして市場規模や流動性の大きさも世界規模であり米中貿易摩擦の影響を大きく受けるのではないかと考えたこと

が挙げられるまたTOPIXの構成銘柄が東証市場第1部に上場する企業であったため企業を選別する上でも対象期間内

に東証1部に上場しているかどうかが重要な点であった企業の総売上高と総売上高に占めるアメリカ中国の売上

高の割合()についてはそれぞれの企業が発行する最新の有価証券報告書のデータを用いた基本統計量は以下の通り

である

(2) 採用した検証手法

1)イベントスタディの採用背景

制裁関税に関するアナウンスが企業の株価に及ぼす効果を調べるためにはイベントスタディの手法を用いる必要が

あるイベントスタディとは企業にとって関係のあるイベントが発生した時そのイベントが当該企業の株式投資収益

率に及ぼした影響を 「もしイベントが起きなければ実現したであろう株式収益率」との差を求めることで調べようと

する手法のことであるこの差のことを異常リターン(Abnormal Return)と呼びそれが正であればそのイベントは当該企

業の価値を高めるように作用した(負であれば逆の効果を及ぼす)と解釈するさらにイベントが発表された日だけで

効果を判断することは危険であるためイベント日前後の一定期間について累積値を求める

2)検証手法

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

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日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

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研究所

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<レポート>

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Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

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日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

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高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

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長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

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<資料>

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「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 2: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

1はじめに

(1)米中貿易摩擦の概要

2017年1月にドナルドトランプ氏がアメリカ合衆国大統領に就任したことは記憶に新しい同氏は同年8月に通商法

第301条に基づき通商代表部に中国の政策がアメリカにとって不合理であるかどうか調査を依頼したその後通商代

表部は2018年3月22日に中国の不合理な法律政策慣行行動がアメリカの知的財産権イノベーション技術開発に危害

を加えていると公表したこれらの課題を解消するために両国間で同年5月から6月の間に計三回の貿易協議が実施さ

れたが合意には至らなかった結果として1980年代から続く対中国貿易赤字のさらなる拡大や技術移転強要知的財

産権侵害を問題視したアメリカ政府は2018年7月から段階的に中国からの一部の輸入品に対し追加関税を課したほかWT

Oへの提訴中国大手通信機器会社のファーウェイとの取引を制限するなどの規制を行った一方の中国政府も即刻対

抗措置という形式でアメリカからの一部の輸入品に関税を課しWTOへの提訴も実施した第1弾第2弾では両国とも影響

の小さいものを選んで対象とし第2弾までは両国の対象金額は同額であったがアメリカの中国製品の輸入額に対して

中国のアメリカ製品の輸入額が圧倒的に小さいため第三弾では中国はアメリカからの輸入品全額に課すことになって

いるこれに対しアメリカは対中輸入の約半分に追加関税を第三弾までに発動している2020年10月現在アメリカの

追加関税措置とそれに伴う中国の対抗関税措置は計四回行われていて両国間の溝は深まるばかりである

1)第1弾

アメリカ政府は通商法301条に基づき2018年7月6日に第1弾として産業機械や電子部品等の340億ドル相当の輸入品に関

税を賦課することを発表実行した同時に中国政府も第1弾の対抗措置として大豆等の農産物等の340億ドル相当のア

メリカからの輸入品に関税を課した

2)第2弾

米通商代表部は2018年8月7日中国の知的財産侵害に対する制裁関税の第2弾を23日に発動すると発表した8月23日に

は第2弾として半導体関連や電子部品プラスチック製品ゴム製品鉄道車両通信部品産業機器などの160億ドル相当

の輸入品に25の追加関税が課され中国政府もその対抗措置として化学工業製品医療設備等の160億円相当のアメリカ

からの輸入品に25の追加関税を課した

表1<アメリカが中国にかけた制裁関税>

発表日 実行日 対象品目 規模

(ドル)

報復関税

(中国rarrアメリカ)

報復関税の

規模

(ドル)

第1弾 201876 201876 産業機械

電子部品

340億 大豆牛肉 340億

第2弾 201887 2018823 半導体化学

製品

160億 石炭化学製品 160億

第3弾 2018918 2018924 家電食料

品自動車部

2000億 液化天然ガス

食料品自動車

600億

第4弾 201981 201991 衣料品テレ

1120億 農産物原油 計750億

20191215 携帯電話パ

ソコン

1600億 木材自動車

3)第3弾

アメリカ政府は2018年9月18日に中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)に対して第3弾の制裁関税を課すことを発表

したアメリカは中国に対する追加関税の対象を食料品や家電自動車部品等にまで拡大し2000億ドル相当の輸入品に

対し10の追加関税を9月24日に発動した第1弾からの追加関税を含めると中国からの輸入の約半分に関税をかける形

となり経済や企業のサプライチェーンへの影響が広がった同日に中国政府も対抗措置として液化天然ガス飲食料

品自動車等の600億ドル相当のアメリカからの輸入品に対して5~10の追加関税を賦課した

4)第4弾

2019年6月末に開催されたG20サミットでの米中首脳会談とそこでの米中通商協議継続の確認により両国間での貿易

をめぐる緊張は一時緩和しアメリカ政府も当面の間の第4弾追加関税不実施を明言したしかし同年7月末での米中閣

僚級協議で議論の進展が見られなかったためアメリカ政府は同年9月1日より中国からの衣類テレビ等の1200億ドル相

当の輸入品に15の追加関税を課し中国政府はアメリカからの石油や農産物等の750億ドル相当の輸入品に5もしくは1

0の関税を課したただ意見公募や聴取の結果を踏まえ携帯電話やノートパソコン玩具等の対象項目1600億ドル相当

への追加関税措置の実施を同年12月15日まで延期しているまた中国政府もこれを受け自動車及び同部品への追加関

税賦課を同日に実施することとした

これらの4弾の関税措置のうちアメリカ政府による第3弾制裁関税の発表日をイベントデイとして採用し分析するこ

ととしたその理由にはこれまでの追加関税措置を比較した中で対象品の総額において第3弾の2000億ドルが最も規模

が大きいことが挙げられる第1弾から第3弾まで合計すると計2500億ドル分の中国からの輸入品に関税がかかることと

なりアメリカの中国からの年間輸出額約5000億ドルであることを鑑みてもその大きさが伺えるこのことからアメリ

カや中国だけでなく両国を跨るサプライチェーンに組み込まれている日本企業への影響も多大であると考えたことも

挙げられる

(2)日本企業への影響

米中貿易摩擦の拡大によりアメリカ中国企業だけでなく日本企業にもその影響は大きく及んでいる2019年9月か

ら12月にかけて実施された日本貿易振興機構(JETRO)の日本企業へのヒアリング調査によると「米中貿易摩擦による業

績への影響あり」と答えた企業のうち「追加関税措置による直接的なマイナスの影響」が見込まれるのはその大多数

が「アメリカによる対中制裁関税適用となった中国産製品」を取り扱う企業であったと明らかにされたそして業績

悪化を改善するためにやむなく製品の値上げを行う企業もありこれが価格競争力の低下や顧客減少を招く可能性もあ

またアメリカの追加関税負担から逃れるため中国での生産を第3国地域に移管する動きも加速している主な日

本企業の移管先にはベトナムやタイ等の東南アジア諸国や日本本国対米輸出上での優位さからメキシコ等が挙げら

れている実際にアメリカによる中国への追加関税第4弾を受けリコーは2019年5月にアメリカ向け主要複合機の生産

を中国からタイに移管することをニュースリリースで発表し京セラも同様の製品の生産を中国からベトナムに移管す

る考えを示しているまた同年6月にはシャープもアメリカ向けのノートパソコン生産拠点を一部ベトナムに移管し

関税負担を減らして早期に代替の生産拠点を獲得することでアメリカ市場での価格競争力を高めようとした日本企業

に影響を与えた他のイベントとしては2019年5月15日にアメリカ商務省が中国の通信機器大手ファーウェイに対し事実

上の禁輸措置を発動したことが挙げられるこの輸出規制は外国企業がアメリカ製品を同社に輸出する場合にも罰則

が適用されるためファーウェイと取引を行う日本企業にも大きな影響が生じた実際に同年5月23日の東京株式市場

では輸出禁止措置の発表前である15日終値に比べて村田製作所の株価は667円(130)TDKの株価は1630円(180)値下が

りしており電子部品産業に従事する企業に打撃を与えたと言えるさらに2019年10月23日の日本政府の調査では日本

の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占め

ることが判明しているこれらの影響は財務省の2019年度上半期(4~9月)の貿易統計にも如実に表れておりアメリカ

の追加関税中国の報復関税第1弾が発表された2018年度上半期と比較しても全体の輸出額は53減(中国向けは91

減)特に「半導体等製造装置」では162減「自動車部品」では115減という結果だったこの衝撃は個々の企業の業

績だけではなく2018年以降日本の貿易赤字が続いていることから国内経済全体へも及んでいることが見て取れる

2先行研究

米中貿易摩擦が日本の多国籍企業(以下 MNCs)に与えた影響を考察した論文に SUN Chang TAO Zhigang YUAN Hongjie Z

HANG Hongyong(2019)があるZHANG et al(2019)は MNCsが特に中国の関連会社が北米との貿易に大きく依存している場合

中国での事業に悪影響が及ぶことそしてこれはさらにMNCsの株価の低下につながることを言及している また中国の

関連会社がMNCsのバリューチェーンにさらに統合されればその影響はさらに大きくなるというしたがって貿易摩擦

の影響は直接関与している2カ国を超えているため 世界経済への影響を理解するには各国間の貿易と多国籍生産の

つながりを考慮に入れる必要があることを示唆している

ZHANG etal(2019)の論文では中国かつ北米と貿易を行っている上場日本企業のグループとそれを行っていない上場

日本企業の2つのグループに分けイベントスタディを行っている具体的には米大統領トランプ氏が中国製品に関税

をかけることを発表した日をイベントデイと設定し被説明変数に個々の企業のCRR(累積リターン)とCAR(累積異常リタ

ーン)説明変数にその企業の中国販売シェアを入れて回帰分析を行っているその際CCRCARではイベント前後各1日

を含めた3日間をウィンドウとしているCRRを用いて2018年3月22日頃をウィンドウとした分析では中国と北米の双方

と取引がある日本企業の上場企業の株式市場リターンが双方と取引のない上場企業よりも0404低くなっており前者

は後者と比べて市場評価が低いと言えるつまり中国北米と貿易を行う日本のMNCは米中貿易摩擦によって被害を受

けていることが示唆されているまたCARを被説明変数とした場合 中国北米と貿易を行う場企業の株式リターンは

そうでない上場企業と比較すると0217低いことも判明したさらに中国に拠点を置く関連企業が米中貿易摩擦によ

り衝撃を受けると日本の親会社から輸入を控えるようになるため親会社の利益低下や株価下落を招くとしたこのこ

とから中国北米への貿易依存が株式市場のパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると結論付けている

次に米中貿易摩擦によるアジア経済への影響について分析した江(2020)を紹介する相互に制裁関税を発動した米中

は中国の対アメリカ輸出とアメリカの対中輸出に打撃を与えるだけなく両国に部材を供給するアジア諸国など第三

国の生産輸出までも巻き込んでいる2018年の日本の貿易統計によると日中貿易の構造は中国が基幹部品素材

や製造用機器などの生産財を日本から輸入しそれを加工した完成品や労働集約型の製品といった消費財を日本に輸出

する相互補完的な関係が依然として続いているこれにより米中貿易摩擦の影響で日本経済も対GDP比が-12とな

り特に電気機器産業と自動車産業またその他製造業にマイナスの影響が出るとした

他にも UNCTAD(国連貿易開発会議)による論文(2019)は アメリカによる対中関税措置が中国に及ぼす影響を調査して

いる対中関税が関税製品の輸入を25以上削減したこと更にはアメリカへの中国の輸出減少はとりわけ台湾メキシ

コEUベトナムに有利な貿易転換効果をもたらしたという全体として中国に対するアメリカの関税が両国に経済的

な損失を与えていることを示しておりアメリカの損失は主に消費者価格の上昇に中国側では重大な輸出損失に繋がっ

ていると結論付けた

最後に本論文においてイベントスタディを行う上で参照した松尾浩之山本健(2006)を紹介する本研究ではイベ

ントスタディの手法によって日本の上場企業間で行われたMampAについて発表された前後における株価すなわち株主価

値の変化を分析している具体的にはシングルファクターモデルを用いて算出した累積異常リターンをグラフで表

すことでMampAの発表が企業の株価に与えた影響を分析したイベントスタディの方法に関しては後述する

3研究に際して-本研究の新規性-

既に述べたように米中貿易摩擦に関する先行研究は多く存在するがそれが日本企業に対して及ぼす影響を産業別に

分析した論文は少ない実際に前述のZHANG et al(2019)は北米貿易依存度が高いもしくは北米と貿易を行う中国現地

法人を有する上場企業はそうでない上場企業と比べて株価への影響が大きいことさらに在中現地法人が日本から多く

調達を受けているほど親会社の株価にも影響があることを示しているが産業別の影響は考慮されていないまた江(2

020)は米中貿易摩擦が特定の産業に従事する日本企業にマイナスの影響を与えると示したが詳細なデータに基づいた

実証には至っていない前述のように日本政府の調査によると日本の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿

易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占めることが判明していてまた半導体等製造装置でも2

018年度上半期と比較して162減と大きな影響を受けているそこで本研究ではイベントスタディと重回帰分析の手

法を用いて新聞記事や先行研究から特に影響が大きいと言及された電気機器産業と日本の主要産業である自動車産業に

従事する企業に着目した関税措置を発動すると発表したイベントが両産業の株価にどのような影響を及ぼしそれの

要因は何であるのかを明らかにする実証分析を行った

4サンプルおよび検証手法

(1) サンプル

企業の株価(権利落ち調整済み株価終値)やTOPIX(東証株価指数)期末従業員数に関するデータについては慶應義塾大

学データベース所収の日経NEEDSからサンプルを得た対象期間は2018年7月20日から2018年9月20日であるまた企業番

号については株式の上場番号を用いたサンプルの対象企業は「1-2 日本企業への影響」で既に述べたように米中貿

易摩擦による影響が大きいと考えられる東証第1部上場の電気機器産業に携わる162社自動車産業に携わる52社とした

産業の分類は前述の日経NEEDSに準拠している東京証券取引所第1部上場企業の株価をサンプルに用いた理由には市

場第1部には国内外を代表する企業が上場しているほか海外投資家が中心となって売買を行う国際的な市場であるこ

とそして市場規模や流動性の大きさも世界規模であり米中貿易摩擦の影響を大きく受けるのではないかと考えたこと

が挙げられるまたTOPIXの構成銘柄が東証市場第1部に上場する企業であったため企業を選別する上でも対象期間内

に東証1部に上場しているかどうかが重要な点であった企業の総売上高と総売上高に占めるアメリカ中国の売上

高の割合()についてはそれぞれの企業が発行する最新の有価証券報告書のデータを用いた基本統計量は以下の通り

である

(2) 採用した検証手法

1)イベントスタディの採用背景

制裁関税に関するアナウンスが企業の株価に及ぼす効果を調べるためにはイベントスタディの手法を用いる必要が

あるイベントスタディとは企業にとって関係のあるイベントが発生した時そのイベントが当該企業の株式投資収益

率に及ぼした影響を 「もしイベントが起きなければ実現したであろう株式収益率」との差を求めることで調べようと

する手法のことであるこの差のことを異常リターン(Abnormal Return)と呼びそれが正であればそのイベントは当該企

業の価値を高めるように作用した(負であれば逆の効果を及ぼす)と解釈するさらにイベントが発表された日だけで

効果を判断することは危険であるためイベント日前後の一定期間について累積値を求める

2)検証手法

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 3: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

表1<アメリカが中国にかけた制裁関税>

発表日 実行日 対象品目 規模

(ドル)

報復関税

(中国rarrアメリカ)

報復関税の

規模

(ドル)

第1弾 201876 201876 産業機械

電子部品

340億 大豆牛肉 340億

第2弾 201887 2018823 半導体化学

製品

160億 石炭化学製品 160億

第3弾 2018918 2018924 家電食料

品自動車部

2000億 液化天然ガス

食料品自動車

600億

第4弾 201981 201991 衣料品テレ

1120億 農産物原油 計750億

20191215 携帯電話パ

ソコン

1600億 木材自動車

3)第3弾

アメリカ政府は2018年9月18日に中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)に対して第3弾の制裁関税を課すことを発表

したアメリカは中国に対する追加関税の対象を食料品や家電自動車部品等にまで拡大し2000億ドル相当の輸入品に

対し10の追加関税を9月24日に発動した第1弾からの追加関税を含めると中国からの輸入の約半分に関税をかける形

となり経済や企業のサプライチェーンへの影響が広がった同日に中国政府も対抗措置として液化天然ガス飲食料

品自動車等の600億ドル相当のアメリカからの輸入品に対して5~10の追加関税を賦課した

4)第4弾

2019年6月末に開催されたG20サミットでの米中首脳会談とそこでの米中通商協議継続の確認により両国間での貿易

をめぐる緊張は一時緩和しアメリカ政府も当面の間の第4弾追加関税不実施を明言したしかし同年7月末での米中閣

僚級協議で議論の進展が見られなかったためアメリカ政府は同年9月1日より中国からの衣類テレビ等の1200億ドル相

当の輸入品に15の追加関税を課し中国政府はアメリカからの石油や農産物等の750億ドル相当の輸入品に5もしくは1

0の関税を課したただ意見公募や聴取の結果を踏まえ携帯電話やノートパソコン玩具等の対象項目1600億ドル相当

への追加関税措置の実施を同年12月15日まで延期しているまた中国政府もこれを受け自動車及び同部品への追加関

税賦課を同日に実施することとした

これらの4弾の関税措置のうちアメリカ政府による第3弾制裁関税の発表日をイベントデイとして採用し分析するこ

ととしたその理由にはこれまでの追加関税措置を比較した中で対象品の総額において第3弾の2000億ドルが最も規模

が大きいことが挙げられる第1弾から第3弾まで合計すると計2500億ドル分の中国からの輸入品に関税がかかることと

なりアメリカの中国からの年間輸出額約5000億ドルであることを鑑みてもその大きさが伺えるこのことからアメリ

カや中国だけでなく両国を跨るサプライチェーンに組み込まれている日本企業への影響も多大であると考えたことも

挙げられる

(2)日本企業への影響

米中貿易摩擦の拡大によりアメリカ中国企業だけでなく日本企業にもその影響は大きく及んでいる2019年9月か

ら12月にかけて実施された日本貿易振興機構(JETRO)の日本企業へのヒアリング調査によると「米中貿易摩擦による業

績への影響あり」と答えた企業のうち「追加関税措置による直接的なマイナスの影響」が見込まれるのはその大多数

が「アメリカによる対中制裁関税適用となった中国産製品」を取り扱う企業であったと明らかにされたそして業績

悪化を改善するためにやむなく製品の値上げを行う企業もありこれが価格競争力の低下や顧客減少を招く可能性もあ

またアメリカの追加関税負担から逃れるため中国での生産を第3国地域に移管する動きも加速している主な日

本企業の移管先にはベトナムやタイ等の東南アジア諸国や日本本国対米輸出上での優位さからメキシコ等が挙げら

れている実際にアメリカによる中国への追加関税第4弾を受けリコーは2019年5月にアメリカ向け主要複合機の生産

を中国からタイに移管することをニュースリリースで発表し京セラも同様の製品の生産を中国からベトナムに移管す

る考えを示しているまた同年6月にはシャープもアメリカ向けのノートパソコン生産拠点を一部ベトナムに移管し

関税負担を減らして早期に代替の生産拠点を獲得することでアメリカ市場での価格競争力を高めようとした日本企業

に影響を与えた他のイベントとしては2019年5月15日にアメリカ商務省が中国の通信機器大手ファーウェイに対し事実

上の禁輸措置を発動したことが挙げられるこの輸出規制は外国企業がアメリカ製品を同社に輸出する場合にも罰則

が適用されるためファーウェイと取引を行う日本企業にも大きな影響が生じた実際に同年5月23日の東京株式市場

では輸出禁止措置の発表前である15日終値に比べて村田製作所の株価は667円(130)TDKの株価は1630円(180)値下が

りしており電子部品産業に従事する企業に打撃を与えたと言えるさらに2019年10月23日の日本政府の調査では日本

の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占め

ることが判明しているこれらの影響は財務省の2019年度上半期(4~9月)の貿易統計にも如実に表れておりアメリカ

の追加関税中国の報復関税第1弾が発表された2018年度上半期と比較しても全体の輸出額は53減(中国向けは91

減)特に「半導体等製造装置」では162減「自動車部品」では115減という結果だったこの衝撃は個々の企業の業

績だけではなく2018年以降日本の貿易赤字が続いていることから国内経済全体へも及んでいることが見て取れる

2先行研究

米中貿易摩擦が日本の多国籍企業(以下 MNCs)に与えた影響を考察した論文に SUN Chang TAO Zhigang YUAN Hongjie Z

HANG Hongyong(2019)があるZHANG et al(2019)は MNCsが特に中国の関連会社が北米との貿易に大きく依存している場合

中国での事業に悪影響が及ぶことそしてこれはさらにMNCsの株価の低下につながることを言及している また中国の

関連会社がMNCsのバリューチェーンにさらに統合されればその影響はさらに大きくなるというしたがって貿易摩擦

の影響は直接関与している2カ国を超えているため 世界経済への影響を理解するには各国間の貿易と多国籍生産の

つながりを考慮に入れる必要があることを示唆している

ZHANG etal(2019)の論文では中国かつ北米と貿易を行っている上場日本企業のグループとそれを行っていない上場

日本企業の2つのグループに分けイベントスタディを行っている具体的には米大統領トランプ氏が中国製品に関税

をかけることを発表した日をイベントデイと設定し被説明変数に個々の企業のCRR(累積リターン)とCAR(累積異常リタ

ーン)説明変数にその企業の中国販売シェアを入れて回帰分析を行っているその際CCRCARではイベント前後各1日

を含めた3日間をウィンドウとしているCRRを用いて2018年3月22日頃をウィンドウとした分析では中国と北米の双方

と取引がある日本企業の上場企業の株式市場リターンが双方と取引のない上場企業よりも0404低くなっており前者

は後者と比べて市場評価が低いと言えるつまり中国北米と貿易を行う日本のMNCは米中貿易摩擦によって被害を受

けていることが示唆されているまたCARを被説明変数とした場合 中国北米と貿易を行う場企業の株式リターンは

そうでない上場企業と比較すると0217低いことも判明したさらに中国に拠点を置く関連企業が米中貿易摩擦によ

り衝撃を受けると日本の親会社から輸入を控えるようになるため親会社の利益低下や株価下落を招くとしたこのこ

とから中国北米への貿易依存が株式市場のパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると結論付けている

次に米中貿易摩擦によるアジア経済への影響について分析した江(2020)を紹介する相互に制裁関税を発動した米中

は中国の対アメリカ輸出とアメリカの対中輸出に打撃を与えるだけなく両国に部材を供給するアジア諸国など第三

国の生産輸出までも巻き込んでいる2018年の日本の貿易統計によると日中貿易の構造は中国が基幹部品素材

や製造用機器などの生産財を日本から輸入しそれを加工した完成品や労働集約型の製品といった消費財を日本に輸出

する相互補完的な関係が依然として続いているこれにより米中貿易摩擦の影響で日本経済も対GDP比が-12とな

り特に電気機器産業と自動車産業またその他製造業にマイナスの影響が出るとした

他にも UNCTAD(国連貿易開発会議)による論文(2019)は アメリカによる対中関税措置が中国に及ぼす影響を調査して

いる対中関税が関税製品の輸入を25以上削減したこと更にはアメリカへの中国の輸出減少はとりわけ台湾メキシ

コEUベトナムに有利な貿易転換効果をもたらしたという全体として中国に対するアメリカの関税が両国に経済的

な損失を与えていることを示しておりアメリカの損失は主に消費者価格の上昇に中国側では重大な輸出損失に繋がっ

ていると結論付けた

最後に本論文においてイベントスタディを行う上で参照した松尾浩之山本健(2006)を紹介する本研究ではイベ

ントスタディの手法によって日本の上場企業間で行われたMampAについて発表された前後における株価すなわち株主価

値の変化を分析している具体的にはシングルファクターモデルを用いて算出した累積異常リターンをグラフで表

すことでMampAの発表が企業の株価に与えた影響を分析したイベントスタディの方法に関しては後述する

3研究に際して-本研究の新規性-

既に述べたように米中貿易摩擦に関する先行研究は多く存在するがそれが日本企業に対して及ぼす影響を産業別に

分析した論文は少ない実際に前述のZHANG et al(2019)は北米貿易依存度が高いもしくは北米と貿易を行う中国現地

法人を有する上場企業はそうでない上場企業と比べて株価への影響が大きいことさらに在中現地法人が日本から多く

調達を受けているほど親会社の株価にも影響があることを示しているが産業別の影響は考慮されていないまた江(2

020)は米中貿易摩擦が特定の産業に従事する日本企業にマイナスの影響を与えると示したが詳細なデータに基づいた

実証には至っていない前述のように日本政府の調査によると日本の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿

易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占めることが判明していてまた半導体等製造装置でも2

018年度上半期と比較して162減と大きな影響を受けているそこで本研究ではイベントスタディと重回帰分析の手

法を用いて新聞記事や先行研究から特に影響が大きいと言及された電気機器産業と日本の主要産業である自動車産業に

従事する企業に着目した関税措置を発動すると発表したイベントが両産業の株価にどのような影響を及ぼしそれの

要因は何であるのかを明らかにする実証分析を行った

4サンプルおよび検証手法

(1) サンプル

企業の株価(権利落ち調整済み株価終値)やTOPIX(東証株価指数)期末従業員数に関するデータについては慶應義塾大

学データベース所収の日経NEEDSからサンプルを得た対象期間は2018年7月20日から2018年9月20日であるまた企業番

号については株式の上場番号を用いたサンプルの対象企業は「1-2 日本企業への影響」で既に述べたように米中貿

易摩擦による影響が大きいと考えられる東証第1部上場の電気機器産業に携わる162社自動車産業に携わる52社とした

産業の分類は前述の日経NEEDSに準拠している東京証券取引所第1部上場企業の株価をサンプルに用いた理由には市

場第1部には国内外を代表する企業が上場しているほか海外投資家が中心となって売買を行う国際的な市場であるこ

とそして市場規模や流動性の大きさも世界規模であり米中貿易摩擦の影響を大きく受けるのではないかと考えたこと

が挙げられるまたTOPIXの構成銘柄が東証市場第1部に上場する企業であったため企業を選別する上でも対象期間内

に東証1部に上場しているかどうかが重要な点であった企業の総売上高と総売上高に占めるアメリカ中国の売上

高の割合()についてはそれぞれの企業が発行する最新の有価証券報告書のデータを用いた基本統計量は以下の通り

である

(2) 採用した検証手法

1)イベントスタディの採用背景

制裁関税に関するアナウンスが企業の株価に及ぼす効果を調べるためにはイベントスタディの手法を用いる必要が

あるイベントスタディとは企業にとって関係のあるイベントが発生した時そのイベントが当該企業の株式投資収益

率に及ぼした影響を 「もしイベントが起きなければ実現したであろう株式収益率」との差を求めることで調べようと

する手法のことであるこの差のことを異常リターン(Abnormal Return)と呼びそれが正であればそのイベントは当該企

業の価値を高めるように作用した(負であれば逆の効果を及ぼす)と解釈するさらにイベントが発表された日だけで

効果を判断することは危険であるためイベント日前後の一定期間について累積値を求める

2)検証手法

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

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<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 4: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

これらの4弾の関税措置のうちアメリカ政府による第3弾制裁関税の発表日をイベントデイとして採用し分析するこ

ととしたその理由にはこれまでの追加関税措置を比較した中で対象品の総額において第3弾の2000億ドルが最も規模

が大きいことが挙げられる第1弾から第3弾まで合計すると計2500億ドル分の中国からの輸入品に関税がかかることと

なりアメリカの中国からの年間輸出額約5000億ドルであることを鑑みてもその大きさが伺えるこのことからアメリ

カや中国だけでなく両国を跨るサプライチェーンに組み込まれている日本企業への影響も多大であると考えたことも

挙げられる

(2)日本企業への影響

米中貿易摩擦の拡大によりアメリカ中国企業だけでなく日本企業にもその影響は大きく及んでいる2019年9月か

ら12月にかけて実施された日本貿易振興機構(JETRO)の日本企業へのヒアリング調査によると「米中貿易摩擦による業

績への影響あり」と答えた企業のうち「追加関税措置による直接的なマイナスの影響」が見込まれるのはその大多数

が「アメリカによる対中制裁関税適用となった中国産製品」を取り扱う企業であったと明らかにされたそして業績

悪化を改善するためにやむなく製品の値上げを行う企業もありこれが価格競争力の低下や顧客減少を招く可能性もあ

またアメリカの追加関税負担から逃れるため中国での生産を第3国地域に移管する動きも加速している主な日

本企業の移管先にはベトナムやタイ等の東南アジア諸国や日本本国対米輸出上での優位さからメキシコ等が挙げら

れている実際にアメリカによる中国への追加関税第4弾を受けリコーは2019年5月にアメリカ向け主要複合機の生産

を中国からタイに移管することをニュースリリースで発表し京セラも同様の製品の生産を中国からベトナムに移管す

る考えを示しているまた同年6月にはシャープもアメリカ向けのノートパソコン生産拠点を一部ベトナムに移管し

関税負担を減らして早期に代替の生産拠点を獲得することでアメリカ市場での価格競争力を高めようとした日本企業

に影響を与えた他のイベントとしては2019年5月15日にアメリカ商務省が中国の通信機器大手ファーウェイに対し事実

上の禁輸措置を発動したことが挙げられるこの輸出規制は外国企業がアメリカ製品を同社に輸出する場合にも罰則

が適用されるためファーウェイと取引を行う日本企業にも大きな影響が生じた実際に同年5月23日の東京株式市場

では輸出禁止措置の発表前である15日終値に比べて村田製作所の株価は667円(130)TDKの株価は1630円(180)値下が

りしており電子部品産業に従事する企業に打撃を与えたと言えるさらに2019年10月23日の日本政府の調査では日本

の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占め

ることが判明しているこれらの影響は財務省の2019年度上半期(4~9月)の貿易統計にも如実に表れておりアメリカ

の追加関税中国の報復関税第1弾が発表された2018年度上半期と比較しても全体の輸出額は53減(中国向けは91

減)特に「半導体等製造装置」では162減「自動車部品」では115減という結果だったこの衝撃は個々の企業の業

績だけではなく2018年以降日本の貿易赤字が続いていることから国内経済全体へも及んでいることが見て取れる

2先行研究

米中貿易摩擦が日本の多国籍企業(以下 MNCs)に与えた影響を考察した論文に SUN Chang TAO Zhigang YUAN Hongjie Z

HANG Hongyong(2019)があるZHANG et al(2019)は MNCsが特に中国の関連会社が北米との貿易に大きく依存している場合

中国での事業に悪影響が及ぶことそしてこれはさらにMNCsの株価の低下につながることを言及している また中国の

関連会社がMNCsのバリューチェーンにさらに統合されればその影響はさらに大きくなるというしたがって貿易摩擦

の影響は直接関与している2カ国を超えているため 世界経済への影響を理解するには各国間の貿易と多国籍生産の

つながりを考慮に入れる必要があることを示唆している

ZHANG etal(2019)の論文では中国かつ北米と貿易を行っている上場日本企業のグループとそれを行っていない上場

日本企業の2つのグループに分けイベントスタディを行っている具体的には米大統領トランプ氏が中国製品に関税

をかけることを発表した日をイベントデイと設定し被説明変数に個々の企業のCRR(累積リターン)とCAR(累積異常リタ

ーン)説明変数にその企業の中国販売シェアを入れて回帰分析を行っているその際CCRCARではイベント前後各1日

を含めた3日間をウィンドウとしているCRRを用いて2018年3月22日頃をウィンドウとした分析では中国と北米の双方

と取引がある日本企業の上場企業の株式市場リターンが双方と取引のない上場企業よりも0404低くなっており前者

は後者と比べて市場評価が低いと言えるつまり中国北米と貿易を行う日本のMNCは米中貿易摩擦によって被害を受

けていることが示唆されているまたCARを被説明変数とした場合 中国北米と貿易を行う場企業の株式リターンは

そうでない上場企業と比較すると0217低いことも判明したさらに中国に拠点を置く関連企業が米中貿易摩擦によ

り衝撃を受けると日本の親会社から輸入を控えるようになるため親会社の利益低下や株価下落を招くとしたこのこ

とから中国北米への貿易依存が株式市場のパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると結論付けている

次に米中貿易摩擦によるアジア経済への影響について分析した江(2020)を紹介する相互に制裁関税を発動した米中

は中国の対アメリカ輸出とアメリカの対中輸出に打撃を与えるだけなく両国に部材を供給するアジア諸国など第三

国の生産輸出までも巻き込んでいる2018年の日本の貿易統計によると日中貿易の構造は中国が基幹部品素材

や製造用機器などの生産財を日本から輸入しそれを加工した完成品や労働集約型の製品といった消費財を日本に輸出

する相互補完的な関係が依然として続いているこれにより米中貿易摩擦の影響で日本経済も対GDP比が-12とな

り特に電気機器産業と自動車産業またその他製造業にマイナスの影響が出るとした

他にも UNCTAD(国連貿易開発会議)による論文(2019)は アメリカによる対中関税措置が中国に及ぼす影響を調査して

いる対中関税が関税製品の輸入を25以上削減したこと更にはアメリカへの中国の輸出減少はとりわけ台湾メキシ

コEUベトナムに有利な貿易転換効果をもたらしたという全体として中国に対するアメリカの関税が両国に経済的

な損失を与えていることを示しておりアメリカの損失は主に消費者価格の上昇に中国側では重大な輸出損失に繋がっ

ていると結論付けた

最後に本論文においてイベントスタディを行う上で参照した松尾浩之山本健(2006)を紹介する本研究ではイベ

ントスタディの手法によって日本の上場企業間で行われたMampAについて発表された前後における株価すなわち株主価

値の変化を分析している具体的にはシングルファクターモデルを用いて算出した累積異常リターンをグラフで表

すことでMampAの発表が企業の株価に与えた影響を分析したイベントスタディの方法に関しては後述する

3研究に際して-本研究の新規性-

既に述べたように米中貿易摩擦に関する先行研究は多く存在するがそれが日本企業に対して及ぼす影響を産業別に

分析した論文は少ない実際に前述のZHANG et al(2019)は北米貿易依存度が高いもしくは北米と貿易を行う中国現地

法人を有する上場企業はそうでない上場企業と比べて株価への影響が大きいことさらに在中現地法人が日本から多く

調達を受けているほど親会社の株価にも影響があることを示しているが産業別の影響は考慮されていないまた江(2

020)は米中貿易摩擦が特定の産業に従事する日本企業にマイナスの影響を与えると示したが詳細なデータに基づいた

実証には至っていない前述のように日本政府の調査によると日本の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿

易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占めることが判明していてまた半導体等製造装置でも2

018年度上半期と比較して162減と大きな影響を受けているそこで本研究ではイベントスタディと重回帰分析の手

法を用いて新聞記事や先行研究から特に影響が大きいと言及された電気機器産業と日本の主要産業である自動車産業に

従事する企業に着目した関税措置を発動すると発表したイベントが両産業の株価にどのような影響を及ぼしそれの

要因は何であるのかを明らかにする実証分析を行った

4サンプルおよび検証手法

(1) サンプル

企業の株価(権利落ち調整済み株価終値)やTOPIX(東証株価指数)期末従業員数に関するデータについては慶應義塾大

学データベース所収の日経NEEDSからサンプルを得た対象期間は2018年7月20日から2018年9月20日であるまた企業番

号については株式の上場番号を用いたサンプルの対象企業は「1-2 日本企業への影響」で既に述べたように米中貿

易摩擦による影響が大きいと考えられる東証第1部上場の電気機器産業に携わる162社自動車産業に携わる52社とした

産業の分類は前述の日経NEEDSに準拠している東京証券取引所第1部上場企業の株価をサンプルに用いた理由には市

場第1部には国内外を代表する企業が上場しているほか海外投資家が中心となって売買を行う国際的な市場であるこ

とそして市場規模や流動性の大きさも世界規模であり米中貿易摩擦の影響を大きく受けるのではないかと考えたこと

が挙げられるまたTOPIXの構成銘柄が東証市場第1部に上場する企業であったため企業を選別する上でも対象期間内

に東証1部に上場しているかどうかが重要な点であった企業の総売上高と総売上高に占めるアメリカ中国の売上

高の割合()についてはそれぞれの企業が発行する最新の有価証券報告書のデータを用いた基本統計量は以下の通り

である

(2) 採用した検証手法

1)イベントスタディの採用背景

制裁関税に関するアナウンスが企業の株価に及ぼす効果を調べるためにはイベントスタディの手法を用いる必要が

あるイベントスタディとは企業にとって関係のあるイベントが発生した時そのイベントが当該企業の株式投資収益

率に及ぼした影響を 「もしイベントが起きなければ実現したであろう株式収益率」との差を求めることで調べようと

する手法のことであるこの差のことを異常リターン(Abnormal Return)と呼びそれが正であればそのイベントは当該企

業の価値を高めるように作用した(負であれば逆の効果を及ぼす)と解釈するさらにイベントが発表された日だけで

効果を判断することは危険であるためイベント日前後の一定期間について累積値を求める

2)検証手法

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

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Page 5: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

の追加関税中国の報復関税第1弾が発表された2018年度上半期と比較しても全体の輸出額は53減(中国向けは91

減)特に「半導体等製造装置」では162減「自動車部品」では115減という結果だったこの衝撃は個々の企業の業

績だけではなく2018年以降日本の貿易赤字が続いていることから国内経済全体へも及んでいることが見て取れる

2先行研究

米中貿易摩擦が日本の多国籍企業(以下 MNCs)に与えた影響を考察した論文に SUN Chang TAO Zhigang YUAN Hongjie Z

HANG Hongyong(2019)があるZHANG et al(2019)は MNCsが特に中国の関連会社が北米との貿易に大きく依存している場合

中国での事業に悪影響が及ぶことそしてこれはさらにMNCsの株価の低下につながることを言及している また中国の

関連会社がMNCsのバリューチェーンにさらに統合されればその影響はさらに大きくなるというしたがって貿易摩擦

の影響は直接関与している2カ国を超えているため 世界経済への影響を理解するには各国間の貿易と多国籍生産の

つながりを考慮に入れる必要があることを示唆している

ZHANG etal(2019)の論文では中国かつ北米と貿易を行っている上場日本企業のグループとそれを行っていない上場

日本企業の2つのグループに分けイベントスタディを行っている具体的には米大統領トランプ氏が中国製品に関税

をかけることを発表した日をイベントデイと設定し被説明変数に個々の企業のCRR(累積リターン)とCAR(累積異常リタ

ーン)説明変数にその企業の中国販売シェアを入れて回帰分析を行っているその際CCRCARではイベント前後各1日

を含めた3日間をウィンドウとしているCRRを用いて2018年3月22日頃をウィンドウとした分析では中国と北米の双方

と取引がある日本企業の上場企業の株式市場リターンが双方と取引のない上場企業よりも0404低くなっており前者

は後者と比べて市場評価が低いと言えるつまり中国北米と貿易を行う日本のMNCは米中貿易摩擦によって被害を受

けていることが示唆されているまたCARを被説明変数とした場合 中国北米と貿易を行う場企業の株式リターンは

そうでない上場企業と比較すると0217低いことも判明したさらに中国に拠点を置く関連企業が米中貿易摩擦によ

り衝撃を受けると日本の親会社から輸入を控えるようになるため親会社の利益低下や株価下落を招くとしたこのこ

とから中国北米への貿易依存が株式市場のパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると結論付けている

次に米中貿易摩擦によるアジア経済への影響について分析した江(2020)を紹介する相互に制裁関税を発動した米中

は中国の対アメリカ輸出とアメリカの対中輸出に打撃を与えるだけなく両国に部材を供給するアジア諸国など第三

国の生産輸出までも巻き込んでいる2018年の日本の貿易統計によると日中貿易の構造は中国が基幹部品素材

や製造用機器などの生産財を日本から輸入しそれを加工した完成品や労働集約型の製品といった消費財を日本に輸出

する相互補完的な関係が依然として続いているこれにより米中貿易摩擦の影響で日本経済も対GDP比が-12とな

り特に電気機器産業と自動車産業またその他製造業にマイナスの影響が出るとした

他にも UNCTAD(国連貿易開発会議)による論文(2019)は アメリカによる対中関税措置が中国に及ぼす影響を調査して

いる対中関税が関税製品の輸入を25以上削減したこと更にはアメリカへの中国の輸出減少はとりわけ台湾メキシ

コEUベトナムに有利な貿易転換効果をもたらしたという全体として中国に対するアメリカの関税が両国に経済的

な損失を与えていることを示しておりアメリカの損失は主に消費者価格の上昇に中国側では重大な輸出損失に繋がっ

ていると結論付けた

最後に本論文においてイベントスタディを行う上で参照した松尾浩之山本健(2006)を紹介する本研究ではイベ

ントスタディの手法によって日本の上場企業間で行われたMampAについて発表された前後における株価すなわち株主価

値の変化を分析している具体的にはシングルファクターモデルを用いて算出した累積異常リターンをグラフで表

すことでMampAの発表が企業の株価に与えた影響を分析したイベントスタディの方法に関しては後述する

3研究に際して-本研究の新規性-

既に述べたように米中貿易摩擦に関する先行研究は多く存在するがそれが日本企業に対して及ぼす影響を産業別に

分析した論文は少ない実際に前述のZHANG et al(2019)は北米貿易依存度が高いもしくは北米と貿易を行う中国現地

法人を有する上場企業はそうでない上場企業と比べて株価への影響が大きいことさらに在中現地法人が日本から多く

調達を受けているほど親会社の株価にも影響があることを示しているが産業別の影響は考慮されていないまた江(2

020)は米中貿易摩擦が特定の産業に従事する日本企業にマイナスの影響を与えると示したが詳細なデータに基づいた

実証には至っていない前述のように日本政府の調査によると日本の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿

易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占めることが判明していてまた半導体等製造装置でも2

018年度上半期と比較して162減と大きな影響を受けているそこで本研究ではイベントスタディと重回帰分析の手

法を用いて新聞記事や先行研究から特に影響が大きいと言及された電気機器産業と日本の主要産業である自動車産業に

従事する企業に着目した関税措置を発動すると発表したイベントが両産業の株価にどのような影響を及ぼしそれの

要因は何であるのかを明らかにする実証分析を行った

4サンプルおよび検証手法

(1) サンプル

企業の株価(権利落ち調整済み株価終値)やTOPIX(東証株価指数)期末従業員数に関するデータについては慶應義塾大

学データベース所収の日経NEEDSからサンプルを得た対象期間は2018年7月20日から2018年9月20日であるまた企業番

号については株式の上場番号を用いたサンプルの対象企業は「1-2 日本企業への影響」で既に述べたように米中貿

易摩擦による影響が大きいと考えられる東証第1部上場の電気機器産業に携わる162社自動車産業に携わる52社とした

産業の分類は前述の日経NEEDSに準拠している東京証券取引所第1部上場企業の株価をサンプルに用いた理由には市

場第1部には国内外を代表する企業が上場しているほか海外投資家が中心となって売買を行う国際的な市場であるこ

とそして市場規模や流動性の大きさも世界規模であり米中貿易摩擦の影響を大きく受けるのではないかと考えたこと

が挙げられるまたTOPIXの構成銘柄が東証市場第1部に上場する企業であったため企業を選別する上でも対象期間内

に東証1部に上場しているかどうかが重要な点であった企業の総売上高と総売上高に占めるアメリカ中国の売上

高の割合()についてはそれぞれの企業が発行する最新の有価証券報告書のデータを用いた基本統計量は以下の通り

である

(2) 採用した検証手法

1)イベントスタディの採用背景

制裁関税に関するアナウンスが企業の株価に及ぼす効果を調べるためにはイベントスタディの手法を用いる必要が

あるイベントスタディとは企業にとって関係のあるイベントが発生した時そのイベントが当該企業の株式投資収益

率に及ぼした影響を 「もしイベントが起きなければ実現したであろう株式収益率」との差を求めることで調べようと

する手法のことであるこの差のことを異常リターン(Abnormal Return)と呼びそれが正であればそのイベントは当該企

業の価値を高めるように作用した(負であれば逆の効果を及ぼす)と解釈するさらにイベントが発表された日だけで

効果を判断することは危険であるためイベント日前後の一定期間について累積値を求める

2)検証手法

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 6: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

する相互補完的な関係が依然として続いているこれにより米中貿易摩擦の影響で日本経済も対GDP比が-12とな

り特に電気機器産業と自動車産業またその他製造業にマイナスの影響が出るとした

他にも UNCTAD(国連貿易開発会議)による論文(2019)は アメリカによる対中関税措置が中国に及ぼす影響を調査して

いる対中関税が関税製品の輸入を25以上削減したこと更にはアメリカへの中国の輸出減少はとりわけ台湾メキシ

コEUベトナムに有利な貿易転換効果をもたらしたという全体として中国に対するアメリカの関税が両国に経済的

な損失を与えていることを示しておりアメリカの損失は主に消費者価格の上昇に中国側では重大な輸出損失に繋がっ

ていると結論付けた

最後に本論文においてイベントスタディを行う上で参照した松尾浩之山本健(2006)を紹介する本研究ではイベ

ントスタディの手法によって日本の上場企業間で行われたMampAについて発表された前後における株価すなわち株主価

値の変化を分析している具体的にはシングルファクターモデルを用いて算出した累積異常リターンをグラフで表

すことでMampAの発表が企業の株価に与えた影響を分析したイベントスタディの方法に関しては後述する

3研究に際して-本研究の新規性-

既に述べたように米中貿易摩擦に関する先行研究は多く存在するがそれが日本企業に対して及ぼす影響を産業別に

分析した論文は少ない実際に前述のZHANG et al(2019)は北米貿易依存度が高いもしくは北米と貿易を行う中国現地

法人を有する上場企業はそうでない上場企業と比べて株価への影響が大きいことさらに在中現地法人が日本から多く

調達を受けているほど親会社の株価にも影響があることを示しているが産業別の影響は考慮されていないまた江(2

020)は米中貿易摩擦が特定の産業に従事する日本企業にマイナスの影響を与えると示したが詳細なデータに基づいた

実証には至っていない前述のように日本政府の調査によると日本の主要企業が米中貿易摩擦で直撃を受ける年間貿

易額の内自動車自動車部品産業がその6割にあたる900億円を占めることが判明していてまた半導体等製造装置でも2

018年度上半期と比較して162減と大きな影響を受けているそこで本研究ではイベントスタディと重回帰分析の手

法を用いて新聞記事や先行研究から特に影響が大きいと言及された電気機器産業と日本の主要産業である自動車産業に

従事する企業に着目した関税措置を発動すると発表したイベントが両産業の株価にどのような影響を及ぼしそれの

要因は何であるのかを明らかにする実証分析を行った

4サンプルおよび検証手法

(1) サンプル

企業の株価(権利落ち調整済み株価終値)やTOPIX(東証株価指数)期末従業員数に関するデータについては慶應義塾大

学データベース所収の日経NEEDSからサンプルを得た対象期間は2018年7月20日から2018年9月20日であるまた企業番

号については株式の上場番号を用いたサンプルの対象企業は「1-2 日本企業への影響」で既に述べたように米中貿

易摩擦による影響が大きいと考えられる東証第1部上場の電気機器産業に携わる162社自動車産業に携わる52社とした

産業の分類は前述の日経NEEDSに準拠している東京証券取引所第1部上場企業の株価をサンプルに用いた理由には市

場第1部には国内外を代表する企業が上場しているほか海外投資家が中心となって売買を行う国際的な市場であるこ

とそして市場規模や流動性の大きさも世界規模であり米中貿易摩擦の影響を大きく受けるのではないかと考えたこと

が挙げられるまたTOPIXの構成銘柄が東証市場第1部に上場する企業であったため企業を選別する上でも対象期間内

に東証1部に上場しているかどうかが重要な点であった企業の総売上高と総売上高に占めるアメリカ中国の売上

高の割合()についてはそれぞれの企業が発行する最新の有価証券報告書のデータを用いた基本統計量は以下の通り

である

(2) 採用した検証手法

1)イベントスタディの採用背景

制裁関税に関するアナウンスが企業の株価に及ぼす効果を調べるためにはイベントスタディの手法を用いる必要が

あるイベントスタディとは企業にとって関係のあるイベントが発生した時そのイベントが当該企業の株式投資収益

率に及ぼした影響を 「もしイベントが起きなければ実現したであろう株式収益率」との差を求めることで調べようと

する手法のことであるこの差のことを異常リターン(Abnormal Return)と呼びそれが正であればそのイベントは当該企

業の価値を高めるように作用した(負であれば逆の効果を及ぼす)と解釈するさらにイベントが発表された日だけで

効果を判断することは危険であるためイベント日前後の一定期間について累積値を求める

2)検証手法

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

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江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

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SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

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三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

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httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

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「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 7: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

4サンプルおよび検証手法

(1) サンプル

企業の株価(権利落ち調整済み株価終値)やTOPIX(東証株価指数)期末従業員数に関するデータについては慶應義塾大

学データベース所収の日経NEEDSからサンプルを得た対象期間は2018年7月20日から2018年9月20日であるまた企業番

号については株式の上場番号を用いたサンプルの対象企業は「1-2 日本企業への影響」で既に述べたように米中貿

易摩擦による影響が大きいと考えられる東証第1部上場の電気機器産業に携わる162社自動車産業に携わる52社とした

産業の分類は前述の日経NEEDSに準拠している東京証券取引所第1部上場企業の株価をサンプルに用いた理由には市

場第1部には国内外を代表する企業が上場しているほか海外投資家が中心となって売買を行う国際的な市場であるこ

とそして市場規模や流動性の大きさも世界規模であり米中貿易摩擦の影響を大きく受けるのではないかと考えたこと

が挙げられるまたTOPIXの構成銘柄が東証市場第1部に上場する企業であったため企業を選別する上でも対象期間内

に東証1部に上場しているかどうかが重要な点であった企業の総売上高と総売上高に占めるアメリカ中国の売上

高の割合()についてはそれぞれの企業が発行する最新の有価証券報告書のデータを用いた基本統計量は以下の通り

である

(2) 採用した検証手法

1)イベントスタディの採用背景

制裁関税に関するアナウンスが企業の株価に及ぼす効果を調べるためにはイベントスタディの手法を用いる必要が

あるイベントスタディとは企業にとって関係のあるイベントが発生した時そのイベントが当該企業の株式投資収益

率に及ぼした影響を 「もしイベントが起きなければ実現したであろう株式収益率」との差を求めることで調べようと

する手法のことであるこの差のことを異常リターン(Abnormal Return)と呼びそれが正であればそのイベントは当該企

業の価値を高めるように作用した(負であれば逆の効果を及ぼす)と解釈するさらにイベントが発表された日だけで

効果を判断することは危険であるためイベント日前後の一定期間について累積値を求める

2)検証手法

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

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「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 8: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

検証手法としてはシングルファクターマーケットモデルによるイベントスタディを利用しその結果を用いて回

帰分析を行ったBrown and Qraner (1985)に示された標準的な手法に従い正常収益率の推定のための期間をイベントデ

イの60日前から30日前までの30日間としサンプル企業の株式リターンをTOPIX指数のリターンに単純回帰させてαi及び

βiを求めている推定が困難なほどに欠損値が生じている場合には株式データそのものを削除したまずイベント

日前の60日から30日までの30日間をestimation windowとして以下のようにaibi並びにTOPIXリターンの実現値からなる正

常収益率E[Rit] を企業iのリターンの実現値から差し引いた回帰残差を求めこれを異常収益率とした(Rmtをマーケ

ットポートフォリオのリターンとしTOPIX指数をこれに当てた)

各企業の異常リターン (AR)

ARit = Rit minus E[Rit]

E[Rit] =αit + βi tRmt

また5日間のイベント期間中のARを以下のように累積した

CARi [minus2 2] = ΣARit

この時の累積期間は関税措置発表2日前から2日後の5日間とするこの期間にした理由としては制裁関税に関するニ

ュースが事前に報道され可能性が排除できないためである本研究では2018年9月18日をイベント日としているが米ブ

ルームバーグ通信によると2018年9月14日トランプ米大統領が中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)分に課す第3弾の

制裁関税発動に向けた準備を続けるよう側近に指示しているトランプ氏は13日にもツイッターで追加関税を「まもな

く」発動すると述べ発動に意欲を示していたというこの記事からもわかるように関税措置発表前からトランプ大

統領はしばしば追加関税について発言し事前に報道されているこのため累積期間は関税措置発表2日前から2日後の

5日間としたしかし累積期間が長すぎると他のイベントに影響される可能性もあるため前後2日に設定したこのよ

うに算出した各企業の累積異常リターンを元に重回帰分析を行い米中貿易摩擦が日本企業に与える影響の要因を調べ

Y=β0+βnXn

被説明変数を各企業の累積異常リターン(CAR)とし説明変数に売上高対中国売上高比率や対アメリカ売上高比率期末

従業員数業種別ダミー中国売上高ダミーアメリカ売上高ダミーなどを入れて分析を行った

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

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Page 9: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

表2(電気機器産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

cum_abnormal_return_3 162 -00103 00533 -0231 0151

test_3 162 -0681 3487 -2057 7986

china_per 82 2170 1602 0 100

us_per 50 3567 1411 0 1011

employee_number 158 18606 43770 39 295941

general 144 00208 0143 0 1

cars 143 00140 0118 0 1

heavy_electrics 141 00709 0258 0 1

others 141 0234 0425 0 1

home_appliance 141 0128 0335 0 1

control_machine 141 0128 0335 0 1

battery 141 00284 0167 0 1

communication 141 0163 0371 0 1

electronic_component 141 0248 0434 0 1

china_dummy 170 0706 0457 0 1

us_dummy 171 0778 0417 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3) 中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

期末従業員数(employee_number) 一般機器ダミー(general) 自動車関連ダミー(cars) 重電ダミー(heavy_electrics) その他ダミー(others)家

電ダミー(home_appliance) 制御機械ダミー(control_machine) 電池ダミー(battery)通信機器ダミー(communication) 電子部品ダミー(electroni

c_component)中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高20以上 (us_dummy)

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 10: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

表3(自動車産業の基本統計量の表)

VARIABLES N mean sd min max

company_id 67 6910 9578 3116 7317

cum_abnormal_return_3 52 -000228 00369 -00993 00680

test_3 52 -00186 2084 -8680 4443

china_per 51 6146 8817 0 3411

us_per 51 1001 1827 0 8751

company_auto 66 0121 0329 0 1

employee_number 66 24839 54608 545 359542

china_dummy 67 0328 0473 0 1

us_dummy 67 0403 0494 0 1

注企業番号(company_id)累積異常リターン(cum_abnormal_return_3) T検定(test_3)中国売上高比率(china_per)アメリカ売上高比率(us_per)

自動車企業(部品以外を生産)(company_auto)期末従業員数(employee_number) 中国売上高20以上(china_dummy)アメリカ売上高 20以上(us_dumm

y)

5仮説の検証結果

(1)電気機器産業の仮説検証

繰り返しになるが私たちの仮説は米中貿易摩擦でアメリカが中国製品の輸入に対する関税を引き上げることによっ

て中国企業の対米輸出が減少し中国企業に対して輸出を行っている日本企業が中国売上高比率が高いほど輸出減少

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

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江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

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川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

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長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

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森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

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Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

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<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 11: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

が懸念され株価下落という形で影響を受けるというものであるこの仮説に従い2017年7月1日から2019年9月3日まで

の株価を用いてイベントスタディを行ったアメリカが第3弾の追加関税を発表した2018年9月18日をイベント日として

設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上高比率米国売上高比率(中国での米国製部品調達が

困難となったことによる代替効果の指標)従業員数(企業規模の指標)更に電気機器企業を業種ごとに分類した業種ダ

ミー(一般機器自動車関連重電家電機器制御機器電池通信機器電子部品その他)も入れて分析を行った結果が表4

の(1)である業種ダミーを入れた理由としてはそれぞれの業種が持つ特性をコントロールするためであるまた中

国売上高比率の代替として中国売上高が20以上と20未満の企業に分類し前者を1後者を0と設定し中国売上高ダミ

ーとして分析したものが表4の(2)である

(1)(2)の結果から第3弾追加関税発動が発表された日の累積異常リターンは中国での売上高比率が1上がると約0

2下がり中国売上高が20以上の場合にはそうでない場合と比べて237低下することが読み取れる即ち中国売上

高比率と中国売上高ダミーがともに株価にマイナスの影響を与えたといえる三菱UFJリサーチコンサルティングに

よる調査書によると対中輸出の大部分は中間財(部品加工品)と資本が占めておりまた部品のうち電気機器と家電の

合計が全体の8割を超えているこのことから中国で電気機器産業が米国による対中制裁によってマイナスな影響を受

ければそれに付随して日本のIT産業に大きな影響が与えられることは容易に想像される実際この影響が原因でサプ

ライチェーンの編成を実施した電気機器企業も少ないが存在する

また本結果から業種ダミーを入れてコントロールしたとしても中国売上高比率と中国売上高ダミーが共にマイナ

スの影響を及ぼしていることが判明しておりここから第3弾の影響の大きさが伺える2018年の7月から8月にかけて行

われた第1弾では半導体や産業ロボット約160億ドルに第2弾では光ファイバー等340億ドルに関税がかけられたしか

し本研究の主眼である第3弾においては新たに家電が関税対象に追加され中国から米国へ輸出する製品2000億ドル分に

関税が賦課されるなどそれまでの貿易制裁額とは桁違いで大きな制裁であったまた第1弾第2弾と合わせると計250

0億ドルほどの製品に関税がかけられることから日常生活への影響も危惧されるほどであったと考えられるこれを考

慮に入れると第1~3弾にかけて関税対象となった電気機器企業が中国売上高の高いほど株価に大きな打撃を受けるこ

とやそもそも第3弾発表時に株式市場全体に大きな衝撃が走ったことは当然の結果だろう

こうしたことから在中製造元企業の対米取引が急激に減少することによる影響を懸念して家電や電子部品を中心と

した電気機器産業の株価が下落したと結論付けられる

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

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郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

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川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

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長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

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森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

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Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

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<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 12: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

表4(電気機産業の累積異常リターン要因分析結果)

VARIABLES

(1)

it3

(2)

it3

(3)

it3

(4)

it3

(5)

it3

(6)

it3

china_per -000192 -000194 -000110

(0000561) (0000680) (0000411)

us_per -551e-06 756e-06

(422e-05) (543e-05)

heavy_electrics 0140 000988 00104

(00419) (00311) (00309)

others 00762 -00151 -00151

(00288) (00277) (00276)

control_machine 00885 -00266 -00271

(00312) (00289) (00288)

battery -

communication -00410 -00362 -00363

(00232) (00282) (00281)

electronic_componen

t -00453 -00429 -00429

(00216) (00275) (00274)

home_appliance -00808 -00439 -00441

(00269) (00290) (00289)

employees 392e-07 151e-07 172e-07 138e-07 145e-07 956e-08

(167e-07) (131e-07) (184e-07) (132e-07) (129e-07) (959e-08)

china_dummy -00237 -00228 -00236

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 13: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

(00109) (00105) (000946)

us_dummy 000328 0000765

(00113) (00103)

Constant -00439 00285 00320 00119 00306 000227

(00179) (00274) (00193) (00117) (00263) (00102)

Observations 28 134 33 79 134 155

R-squared 0687 0146 0256 0100 0146 0052

plt001 plt005 plt01

(2)自動車の仮説検証

電気機器産業と同様 自動車産業においても第3弾の貿易制裁が日本の自動車産業全体にはマイナスの影響を与える

という仮説に従い2018年9月18日をイベントとして設定し被説明変数に累積異常リターンそして説明変数に中国売上

高比率米国売上高比率従業員数更に自動車企業を業種ごとに細かい分類に分けた業種ダミーも入れて分析を行っ

た結果が表5の(1)(2)である

この結果から中国売上シェアの高低は自動車産業全体に影響を与える要因ではないことが見て取れるしかし日本

の自動車の完成品を製造している企業(company_auto)は第3弾の関税制裁発表を受けて累積異常リターンが高くなること

が確認できたつまりイベント発表を受けて株価が異常に上昇した表5の(1)(2)からわかるように自動車産業のうち

自動車の完成品を主に輸出している(company_autoのダミーが1である)と累積異常リターンが27高くなることが読み取れ

るがこの結果はどのように解釈できるだろうか

現在自動車業界ではグローバル化の進行によって中国のサプライヤーが供給網で極めて独占的な地位を占めるよう

になっている実際中国企業1000社以上が米国の自動車メーカーや部品販売店向けに自動車部品を輸出しているボ

ストンコンサルティンググループの調査によると米国が中国から輸入する自動車部品は年間100億ドル(約1兆1200

億円)相当とメキシコの230億ドルに次ぎ2番目の規模だしかし第3弾の2000億ドル(約22兆5000億円)相当の中国輸入品

に対する追加関税の対象にはクランク軸やスパークプラグワイパーブレードなどさまざまな自動車関連部品が含ま

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 14: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

表5(自動車産業の累積異常リターン要因分析結果)

(1) (2) (3) (4) (5)

VARIABLES auto 3 auto 3 auto 3 auto 3 auto 3

china_per -0000252 -0000244

(0000619) (0000613)

us_per 0000102 985e-05

(0000285) (0000282)

company_auto 00267 00258 00270 00263 00286

(00149) (00141) (00147) (00140) (00140)

china_dummy -00153 -00134

(00151) (00148)

us_dummy 000818

(00121)

Constant -000610 -000607 -000516 -000453 -000790

(000765) (000635) (000713) (000589) (000619)

Observations 51 52 51 52 51

R-squared 0086 0103 0083 0094 0083

Stand errors in parentheses

plt001 plt005 plt01

れていたこれによってそれまで中国企業から手頃な価格で調達していた特定の素材や部品が入手しづらくなりそう

した部品を迅速に調達できる代替先がほとんどなかったと考えられるTHE WALL STREET JOURNAL の記事によると この影

響はサプライチェーン全体に波及する見通しで新車中古車問わず価格を押し上げる可能性があったというつまり

アメリカが中国の自動車関連部品に追加関税を課したことで中国から部品を輸入している米国の自動車メーカーの製造

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 15: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

コストが上がり代替的に日本の自動車メーカーの自動車が売れるようになることをマーケットが予測したと考えられ

他方で中国も報復関税としてアメリカの自動車に追加関税をかけている中国の対米関税は対象品目の輸入総額が1

158億ドル対象品目に対する平均追加関税率は151となっているこのうち既に発動されている約500億ドル相当の

輸入品目に対する25の追加関税賦課の中で金額が大きいのは自動車と大豆であるつまり中国がアメリカの自動車

追加関税をかけることでアメリカの自動車の価格が上昇し代替的に日本の自動車が売れるようになるため今回の発表

を受けて日本の自動車産業の株価収益率が異常に上昇したと考えるこのことからもアメリカの自動車価格が高くな

ることで日本の自動車が代わりに売れることを予想し累積異常リターンが上昇したと考える

6頑健性の確認

表4の(3)(4)(5)(6)(7)が電気機器企業の頑健性を調べた結果である(3)(4)では前章で用いた説明変数から各企業

の米国売上高比率や業種ダミーを抜いて回帰分析を行ったところ中国売上高比率が1上がると累積異常リターンが

01~02減少することが分かるまた (5)(6)では米国売上高ダミーや各企業の業種ダミーを抜いて回帰分析を行っ

たところ中国売上高ダミーの場合累積異常リターンが22~23減少することも判明したここから前章で行った分

析の頑健性を確かめることができたまた自動車産業の頑健性の確認として説明変数を変化させた結果が表5の(3)

(4)(5)である(3)では米国売上高を説明変数から取り除いてもcompany_autoの場合は累積異常リターンが27上昇し

た更に説明変数を中国売上高比率から中国売上高20以上のダミーに変化させた場合においてもcompany_autoつまり

業種別のうち自動車本体を生産している業種の場合は累積異常リターンが26上昇することが読み取れたこの結果

からわかるように業種別のうち自動車を生産している業種は米中貿易摩擦の第三弾の発表を受けて株価収益率が上昇

することは明らかであり前章の分析の頑健性が確認できたと言える

7まとめ

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 16: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

(1)結論

本研究ではイベントスタディの手法を用いて日本の電気機器企業と自動車企業の株価がどのような影響を受けたの

か分析解釈してきた特に追加関税額の大きかった第3弾の2018年9月18日をイベント日と設定して分析を行ったとこ

ろ電気機器の株価は中国売上高が大きいほどマイナスの影響を受けることが判明した一方で自動車企業の分析に

おいては自動車そのものを生産する業種の株価はプラスの影響を受けていることが示されたこれは中国市場におい

てアメリカ製自動車に関税がかかることの代替効果として日本企業の自動車が売れるという背景があるからであろ

う米中日間でのサプライチェーンが構築されている今米中貿易摩擦による影響から無関係でいることは難しそう

今回の分析対象は2019年の9月のイベントであったが米中貿易摩擦の動向は日々変化している2019年8月に第4弾の

関税追加が発表された後からは米中貿易摩擦の解決に向けて協議がなされており2020年1月15日には米中両政府によっ

て通商協議に関する「第1段階」の合意に達しているそして互いに課していた関税措置の一部を撤廃するほかアメ

リカは実施を予定していた中国製の携帯電話端末おもちゃパソコンなどに対する関税の発動を見送ることが発表さ

れた

しかし米中貿易摩擦は米中が様々な分野で繰り広げる覇権争いの一端にすぎず貿易摩擦が解消されれば万事解決と

いうわけにはいかない経済的な面では中国に依存しているものの安全保障面ではアメリカに頼る日本は今後どの

ような選択をしていけばよいのだろうか物事の関係性や因果関係が複雑化する中で日本企業の行く末は不透明であ

り動向に注目していきたい

(2) 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界としてはサンプル数の課題が挙げられる東証第1部上場企業を対象としさらに最新の有価証券報告

書で中国アメリカへの輸出額を公表している企業は少なくしたがって両国への輸出高比率を用いて分析を行った場

合他の分析と比較するとサンプル数が少なくなってしまう問題が特に電気機器産業の場合に顕著であった

最後に本研究では第3弾の貿易制裁発表を受けて日本の電気機器産業が負の影響を自動車産業が正の影響を受ける

という結論とこれに対する考察をすることができた関税措置に対してイベントスタディと回帰分析の2つの手法を用

いて有意義な結果が得られたと考えている今後はこの2つの産業のみならず様々な産業に対しても同様の分析を進

め日本の産業発展に役立てたいと考えている

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 17: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

参 考 文 献

<データベース>

日経NEEDS httpswwwnikkeimmcojpservicedetailid=314

日本取引所グループ httpswwwjpxcojp

<論文>

大橋和彦 澤田考士(2004)「J-REITリターンのイベントスタディー -新規物件取得の発表に対するJ-REIT のリターンの反応-

(2001年9月から2004年3月まで)」『国土交通政策研究 第35号』

江秀華(2020)「米中貿易戦争によるアジア経済への影響について」『アジア太平洋討究』No38

松尾浩之山本健(2006)「日本のMampA-イベントスタディによる実証研究-」『経済経営研究』Vol26 No6 日本政策投資銀行設備投資

研究所

Alessandro Nicita (2019)「Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China」『UNCTAD Research Paper』No37

SUN ChangTAO ZhigangYUAN HongjieZHANG Hongyong(2019) 「The Impact of the US-China Trade War on Japanese Multinational Corporations」『R

IETI Discussion Paper Series 19-E-050』

<レポート>

大和総研(2018)「最新最速米中貿易戦争に伴う 『品目別』追加関税率の詳細分析」

内閣府(2019)「米中貿易摩擦下の世界経済と金融政策」『世界経済の潮流』

三浦有史(2019)「米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか」『環太平洋ビジネス情報』RIM Vol19 No75

三菱UFJリサーチコンサルティング(2010)「日本の対米輸出と対中輸出」

Yi Huang Chen Lin Sibo Liu Heiwai Tang(2018)「The economic costs of the 2018 US-China lsquotrade warrsquo A view from the financial markets」

<書籍>

郭四志(2019)『米中摩擦下の中国経済と日中連携』第 1379 章 同友館 木内登英

グレアムアリソン(Graham Allison)(2017)『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社

近藤大介(2019)『ファーウェイと米中5G戦争』

日本経済新聞出版(2018)『トランプ貿易戦争―日本を揺るがす米中衝突』

増田悦佐(2019)『アメリカの真の狙いは日本』

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpstoyok eizainetarticles-239650page=2

Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

(最終閲覧日2020年10月30日)httpsjpwsjcomarticlesSB10972655212308343394604584481721703361630

<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2

Page 18: 米中貿易摩擦が日本企業に与える影響また,アメリカの追加関税負担から逃れるため,中国での生産を第3国・地域に移管する動きも加速している。主な日

<ウェブページ>

川田敦相「米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮」日本貿易振興機構 2020年1月10日(最終閲覧

日2020年10月30日)httpswwwjetrogojpbizareareportsspecial20191201b9bc9720fbf660d4html

財務省貿易統計 2019年度 (最終閲覧日2020年10月30日)httpswwwcustomsgojptoukeishinbuntrade-st20192019_117pdf

高田創「米中貿易摩擦アジアへの影響マイナスとプラス要因」みずほ総合研究所 2019年1月22日(最終閲覧日2020年10月30日)

httpswwwmizuhobankcojpcorporateworldinfocndbeconomicschinapdfR214-0102-XF-0105pdf

長谷川建一 「米中通商協議で第1段階の骨抜き合意hellip市場が見透かすシナリオ」2020年1月18日 (最終閲覧日2020年10月30日)

httpsgentosha-gocomarticles-25169

森田宗一郎「絶好調「工作機械」に迫る米中貿易摩擦の影」東洋経済ONLINE 2018年9月27日 (最終閲覧日2020年10月30日)

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Trefor MossChester Dawson 「米対中関税第3弾自動車部品業界を直撃へ」THE WALL STREET JOURNAL 2018年9月20日

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<資料>

「米中摩擦 日本への影響6割が自動車」『産経新聞』2019年10月24日朝刊p10

「シャープ米向け複合機生産を移管追加関税なら中国からタイに」『日本経済新聞』2019年5月24日朝刊p1

「『ファーウェイ外し』続 々格安通信も発売延期 部品メーカー株 下落」 『読売新聞』2019年5月24日朝刊p2