Basic Principles of CT Image Display - JST

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258 MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.27 No.4 September 2009 X CT 2 回:CT 画像の基本と画像表示 Basic Principles of CT Image Display * Shinsuke TSUKAGOSHI 「第 1 回:画像形成の原理」にて得られた CT 画像における CT 値や WW/WL,マトリックスサイズ, Isotropic image の基本的な特徴から,CT 画像の 3 次元的な表示方法である MPRMIPVR などに関して述 べる. キーワードCT 値,WW/WLIsotropic imageMPRVR 1X CT 画像の基本 通常,X 線撮影装置は人体組織の X 線吸収の 強弱を白黒の濃淡として画像化を行っており, X CT も基本的に同様の手法(ただし, 3 次元的な 人体各組織の X 線吸収係数を計算によって画像 として抽出する装置)であるが,白黒の濃淡を 画像化する際に, CT 値(Hounsfield unit: HU)とい う特有の単位を使用する.表示される CT 値の範 囲は装置により異なるが, -2000 ~ 4000 以上と非 常に広く,臨床目的に合わせて濃淡を WW(Win- dow width),WL(Window level) でコントロール することができる.本章では,この CT 値, WW/ WL と,表示系に大きく関係するマトリックスや Isotropic image,再構成関数について述べる. 1CT 値(Hounsfield unit: HUCT 値は次式で表され,水の CT 値が 0,空気の CT 値が -1000 であり,X 線吸収係数に比例して いる.ここで,μ t は物質の吸収係数であり,μ w 水の吸収係数である.代表的な物質と CT 値の関 係〔1〕を Fig. 1 に示す. CT 値= 実際に水を 0,空気を -1000 と正確に表示する ために,水ファントム(水の入った円形の容器) と空気をスキャンしたデータでキャリブレー ションを行う.近年,水キャリブレーションは メーカーメンテナンス,空気キャリブレーショ ンはユーザが日常的に行っている. 2WW(Window width) WL(Window level) CT 値の範囲(約 -2000 ~ 4000)は非常に大き いが, CT 装置の濃度スケールは 8 ビット (2 8 =256) でしかなく,さらに人間の肉眼で識別できる濃 淡は,たかだか 16 ~ 32 階調〔2〕である.その ため,臨床目的に合わせて CT 値の表示範囲をコ ントロールすることが重要で,そのコントロー ルは WWWL で行う. Fig. 2は,腹部を異なるWWで表示した画像で, Fig. 2 a)は, WW 2048 と広範囲を表示し, Fig. μ t μ w μ w ----------- 1000 × * 東芝メディカルシステムズ㈱CT 事業部CT 開発部シ ステム開発担当〔〒 324-8550 栃木県大田原市下石上 1385 番地〕 e-mail: [email protected] 投稿受付:2009 8 20 最終稿受付:2009 9 14 Fig. 1 CT4000 2000 1000 100 50 0 -50 -100 -1000 -2000 金属 /石灰化 軟部組織 脂肪組織 空気

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258 MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.27 No.4 September 2009

講 座

X 線 CT第 2 回:CT 画像の基本と画像表示

Basic Principles of CT Image Display

塚 越 伸 介 *

Shinsuke TSUKAGOSHI

 「第 1 回:画像形成の原理」にて得られた CT 画像における CT 値や WW/WL,マトリックスサイズ,

Isotropic image の基本的な特徴から,CT 画像の 3 次元的な表示方法である MPR, MIP, VR などに関して述

べる.

キーワード:CT 値,WW/WL,Isotropic image,MPR,VR

1.X 線 CT 画像の基本

通常,X 線撮影装置は人体組織の X 線吸収の

強弱を白黒の濃淡として画像化を行っており,X線 CT も基本的に同様の手法(ただし,3 次元的な

人体各組織の X 線吸収係数を計算によって画像

として抽出する装置)であるが,白黒の濃淡を

画像化する際に,CT 値(Hounsfield unit: HU)とい

う特有の単位を使用する.表示される CT 値の範

囲は装置により異なるが,-2000 ~ 4000 以上と非

常に広く,臨床目的に合わせて濃淡を WW(Win-dow width),WL(Window level) でコントロール

することができる.本章では,この CT 値,WW/WL と,表示系に大きく関係するマトリックスや

Isotropic image,再構成関数について述べる.

1)CT 値(Hounsfield unit: HU)

CT 値は次式で表され,水の CT 値が 0,空気の

CT 値が -1000 であり,X 線吸収係数に比例して

いる.ここで,μtは物質の吸収係数であり,μwは

水の吸収係数である.代表的な物質と CT 値の関

係〔1〕を Fig. 1 に示す.

CT値=

実際に水を 0,空気を -1000 と正確に表示する

ために,水ファントム(水の入った円形の容器)

と空気をスキャンしたデータでキャリブレー

ションを行う.近年,水キャリブレーションは

メーカーメンテナンス,空気キャリブレーショ

ンはユーザが日常的に行っている.

2)WW(Window width) と WL(Window level)CT 値の範囲(約 -2000 ~ 4000)は非常に大き

いが,CT装置の濃度スケールは8ビット (28=256)でしかなく,さらに人間の肉眼で識別できる濃

淡は,たかだか 16 ~ 32 階調〔2〕である.その

ため,臨床目的に合わせて CT 値の表示範囲をコ

ントロールすることが重要で,そのコントロー

ルは WW,WL で行う.

 Fig. 2は,腹部を異なるWWで表示した画像で,

Fig. 2 a)は,WW を 2048 と広範囲を表示し,Fig.

μt μw–μw

------------ 1000×

要 旨

*東芝メディカルシステムズ㈱CT事業部CT開発部シ ステム開発担当〔〒 324-8550 栃木県大田原市下石上 1385 番地〕 e-mail: [email protected] 投稿受付:2009 年 8 月 20 日 最終稿受付:2009 年 9 月 14 日 Fig. 1

CT値白

4000

2000

1000

100

50

0

-50

-100

-1000

-2000

金属

骨/石灰化

軟部組織

脂肪組織

空気

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Med Imag Tech Vol.27 No.4 September 2009 259

2 b)は,WW を 256 まで絞った画像である.Fig. 2b)で確認できる病変(実線矢印)が,Fig. 2 a)では,ほとんど確認できない.これは CT 装置の

濃度スケール(8 ビット)変換時に,Fig. 2 a)は

CT 値 2048 の範囲を 256 階調にするためで,CT値 8 の差(2048 ÷ 256 = 8)をつぶして表示して

いることが原因,反対に Fig. 2 b)は,CT 値 128以上はすべて 128,CT 値 -128 以下はすべて -128として表示するので,CT 値 -128 ~ 128 までは小

さな差でも検出可能だが,骨の内部構造(点線

矢印)は CT 値が 128 以上のため表示されない.

WW,WL の設定方法は施設により異なるが,

Fig. 3 に例を示す.目的とする臓器(または占有

率の高い臓器:今回は肝臓)の CT 値を計測し,

その CT 値を WL(今回は WL:60)に設定する.

WL は濃度スケール変換時の中心値であり,ここ

を中心に WW の範囲を表示することになる.次

に WW であるが,肝臓の微少な CT 値差を表示

するためには,できるだけ狭めた方がよいが,空

気と脂肪を区別できることも重要なため,狭め

ておいた WW を少しずつ広げていき,ギリギリ

脂肪がわかる範囲(今回は WW:350)に設定す

ることがポイントである.

3)マトリックス(画素数)

現在,CT の画像再構成の主流はフィルタ補正

逆投影法であり,検出器によって得られたデー

タを逆投影する際のキャンバスの画素数をマト

リックスという.この画素数が小さいと 1 ピク

セルが大きいのでモザイクのような画像になっ

てしまい,反対に大きいと 1 ピクセルは小さく

なり空間分解能は向上する.しかし,空間分解

能は検出器サイズにも密接に関係するため,あ

るマトリックスサイズ以上では空間分解能は変

わらなくなる.

マトリックスサイズは,64 × 64 → 128 × 128→ 256 × 256 → 320 × 320 → 512 × 512 と増加

してきたが,ここ 10 年は変化しておらず,現在

の CT では,512 × 512 マトリックスが一般的で,

このマトリックス 1 つ 1 つに CT 値が存在する.

しかし,高速な再構成が必要なプレビュー時や

CT 透視〔3, 4〕では,今でも 256 × 256 マトリッ

クスが使用されている.

基本的にマトリックスは,撮影時の FOV(Fieldof view) によらず一定であるため,FOV が大きな

場合は 1 ピクセルの大きさも大きくなり空間分

解能は劣化する.たとえば FOV が 500mm の場

合1ピクセルは約 1mm で,FOV が 250mm の場

合 1 ピクセルは約 0.5mm となる.

4)Isotropic imageIsotropicとは等方性という意味であり,近年CT

の体軸(Z)方向の分解能が向上したことによっ

て,0.5mm や 0.625mm での等方性ボクセルが可

能で,これによって Fig. 4 のような画像が得られ

るようになった.Isotropic には,Isotropic voxelと Isotropic resolution と呼ばれる 2 種類があり,

以下にその意味を説明する.

(a)Isotropic voxelX, Y, Z 方向のボクセルサイズが等しいこと

で,たとえば,FOV:256(mm),スライス厚:0.5mmで撮影されたデータを 512 マトリックスで表示

すると,XY 方向のサイズが,256(mm) ÷ 512(マ

トリックス)= 0.5(mm) で,Z 方向のサイズは 0.5mm なので,X, Y, Z すべての方向で 0.5mm とな

り,0.5mm の等方性ボクセルを実現できる.仮

にスライス厚が 5mm だとしても,再構成間隔※

※再構成間隔:ヘリカルスキャンによって得られた

データは体軸方向に画像再構成する位置や間隔を任

意(装置によって異なる)に決定できる.

WW:350, WL:60CT値:60.0

Fig. 2 Fig. 3a) WW:2048, WL:0 b) WW:256, WL:0

CT値 CT値

8ビット 8ビット

128

-128

1024

-1024

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を 0.5mmにすることで Isotropic voxelは可能とな

るが,Z 方向の分解能は 5mm なので,Z 方向に

伸びた画像になる.

(b)Isotropic resolutionこちらは,X, Y, Z 方向の分解能が等しいこと

で,Isotropic voxel との一番の違いを,Fig. 5 に示

す.Fig. 5 b), c) は,どちらも X, Y, Z が 0.1mm の

Isotropic voxel である.しかし,b)は X-Y 方向

の分解能と Z 方向の分解能が異なっており

Isotropic resolution ではない.c) は,X, Y, Z すべ

ての方向で分解能が等しく,これが Isotropicresolution である〔5〕.

5)再構成関数

再構成関数とはフィルタ補正逆投影時のフィ

ルタであり,装置により異なるが多数存在する.

ここでは詳細は省くが,同一撮影データを異な

る再構成関数で作成した画像を Fig. 6 に示す.

Fig. 6 a)はスムーズ,Fig. 6 b) はシャープな関数

で,同一撮影データであるのに見え方が異なる.

画像解析や CAD(Computer Aided Detection)を

作成する際にも,この再構成関数には注意が必

要である.

2.画像表示

この章では,CT 画像表示に関する基本的な拡

大縮小から,3 次元画像処理方法である MPR(Multi planar reconstruction)や MIP(Maximumintensity projection),VR(Volume rendering)に関

して臨床画像を例に簡単に述べる〔2, 4, 6〕.1)画像の拡大・縮小

CT では,一般的な bi-linear や bi-cubic 補間を

使用した拡大表示以外にも,画像再構成時に拡

大範囲を設定することが可能であり,その違い

を Fig. 7 に示す.Fig. 7 a) の bi-linear による拡大

では画像のボケ感が強いのに対し,Fig. 7 b) の拡

大再構成はシャープである.ただし,Fig. 7 b) は画像再構成から行うため時間が掛かるというデ

メリットがある.また極端に拡大率を大きくし

ても検出器のサイズで決まる分解能を越えてし

まう場合は,拡大再構成でも分解能は変わらな

くなる.

Fig. 6

Fig. 5

WL = -400WW= 400

X-Y方向>Z方向

Z

X-Y方向 Z方向

(Axial) (Sagittal)

WL = -400WW= 400

Z

X-Y方向 Z方向

(Axial) (Sagittal)

X-Y方向=Z方向

b) 異なる分解能 c) 等方性分解能

a) スムーズな再構成関数 b) シャープな再構成関数

WW:400, WL:50 WW:400, WL:50

Fig. 4

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Med Imag Tech Vol.27 No.4 September 2009 261

bi-linearやbi-cubic補間は,表示する際のデフォ

ルト機能(装置により異なる)であり,画像拡大・

縮小以外にも画像回転時にも使用される.

2)3 次元画像処理

(a)多断面再構成法(MPR: Multi planar reconstruction)MPRとは,3次元のボリュームデータから横断

面(Axial)以外に冠状断面(Coronal)や矢状断面

(Sagittal)などの断面を構築する方法で,現在の

CT の 3 次元処理の中でもっとも多く使用されて

いる.Fig. 8 はボリュームデータから Coronal 像を作成した画像である.MPR 画像は,通常の

Axial 像と同様に CT 値を WW, WL によってコン

トロールすることができ,さらに Coronal 像や

Sagittal像 以 外 に任意の斜め断面を作成すること

も可能である. さらに,MPR の発展系である曲面再構成法

(CPR: Curved planar reconstruction) を心臓のデー

タを例(Fig. 9)に示す.Fig. 9 a) 3 次元ボリュー

ムデータ(後で説明する Volume rendering 像)の

矢印の血管(LAD:Left coronary artery)に沿っ

て,曲面で再構築した CPR 像が Fig. 9 b)であ

る.CPR 像は,血管や気管支の内部など,平面

ではトレースの難しい管系に関して,効果的に

観察することを可能とする.

(b)最大値投影法(MIP: Maximum intensity projection)MIP は 3 次元のボリュームデータに対し任意

の視点を設定し,その視点と投影面の画素を結

ぶ経路上の最大値を 2 次元面に投影する表示手

法である.Fig. 10 a) に示したように,設定した

経路上には,10,-5,2,90,20 の CT 値が存在

し,この中で一番大きな CT 値が 90 であるため,

この 90 を代表として投影面に投影する.これを

繰り返すことで,それぞれの投影面に最大値が

決定され,MIP 画像が完成する.Fig. 10 b) に腹

部の MIP を示す.

MIP の特徴としては画像ノイズの影響を受け

にくく,さらに低コントラストの画像でもコン

トラストよく抽出できる.しかし,最大値以外

Fig. 7

Fig. 8

a) bi-linearによる拡大 b) 拡大再構成

Z

a) 3次元ボリュームデータ b) MPR Coronal画像

Fig. 9a) 3次元ボリュームデータ b) CPR画像(a矢印の血管)

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は画像に反映されないため,前後の位置を正し

く把握するためには,何種類か角度を変えた観

察が効果的である.

 また,MIP の反対で最小値を投影する方法

(MINIP: Minimum intensity projection)もあり,肺

野などの表示に使用される.

(c)ボリュームレンダリング法(VR: Volume rendering)初期の3D表示にはサーフェイスレンダリング

法(SR: Surface rendering)が用いられていた.SRは目的とする部位を閾値で選択(2 値化)するこ

とで表面位置を抽出し,表面情報と光源の関係

(光源の強度は手前から減衰していく陰影処理)

から3D画像を作成する技法である.しかし,この

方法では CT 値に差のある血管などは閾値では,

うまく分離することができず,3D 表示時に一部

の血管を失うことが多かった.現在では VR 法

(Fig. 11)が用いられ主流となっている.VR 法は

目的とする領域の CT 値の上限/下限値を設定

し,その範囲に不透明度(Opacity)というパラ

メータを追加して陰影処理を行い,3D を作成す

る手法である.

不透明度を Fig. 11 a) で説明する.ここでは不

透明度 1.0 は白,不透明度 0 は黒とし,CT 値 100は不透明度 0,CT 値 500 は不透明度 1.0 なので,

CT 値 300 は不透明度 0.5 でグレーとして表され

る.このカーブは凸型や凹型,手動で作成する

ことも可能で,さらにカラー設定や領域を分割

してその領域ごとに設定することもできる.

文  献

〔 1 〕 岩井喜典:CT スキャナ.㈱コロナ社,1979〔 2 〕 平野 透,井田義宏,石風呂実,他:超実践マニュ

アル CT.㈱医用科学者,2006〔 3 〕 大友 邦:腹部血管造影ハンドブック.中外医学

社,1999〔 4 〕 辻岡勝美,花井耕造:CT 撮影技術学.㈱オーム社,

2005〔 5 〕 Tsukagoshi S, Ota T et al: Improvement of spatial reso-

lution in the longitudinal direction for isotropic imaging inhelical CT. Phys Med Biol 52: 791-801, 2007

〔 6 〕 今里悠一,大橋昭南:医用画像処理.㈱昭晃堂,1993

塚越伸介(つかごし しんすけ)

 2001 年東京理科大学・数学科卒.2006 年

大阪大学・医学系研究科・博士課程修了.1996 年より国立がんセンター中央病院で

診療放射線技師の勤務を経て,2002年より

東芝メディカルシステムズ㈱入社,現在,CT 装置の研究開発に従事.

* * *

Fig. 10

Fig. 11

Max

a) 3次元ボリュームデータ b) MIP画像

CT値 下限値100(HU)

上限値500(HU)

Opacity curve不透明度:1.0

不透明度:0

b) VR画像a) 不透明度